■飛翔する燕 (ひしょうするつばめ)-04.武器庫点検(2016年04月10日UP)

 深夜を過ぎたが、ナイヴィスは寝付けずにいた。
 隣で眠るワレンティナの寝相の悪さも、枕が変わったことも、他のことに比べれば、ほんの些細なことに過ぎない。
 魔法の鎧を身に着けたままであること。夜襲などへの備えとして、騎士は寝巻に着替えないと知ったのは、つい最近のことだ。
 そして、最も心に重くのしかかっているのは、明日のこと。
 ナイヴィスに向けられた村娘たちの眼は、期待に満ちていた。
 それだけ、不安が大きいのだろう。
 「明日はきっとやっつけて下さいね」と言われ、善処すると答えたものの、ナイヴィスには、何をどうすればいいのかさえ、わからない。
 何しろ、今回が騎士として初めての任務なのだ。
 ナイヴィスは三カ月前まで、文官として、ムルティフローラの王城で働いていた。
 二十歳の時に官吏登用試験に合格し、この七年間、役人として誠実に勤めてきた。
 元居た部署は、空調管理室。
 術による室温管理や、局地的な天候の変更、天気予報が主な業務だ。
 他から見れば、地味で単調でつまらない仕事だが、物事にコツコツ取り組むのが好きなナイヴィスの性分には、合っていた。天職とも言える。

 それが一変したのは、春の武器庫点検だ。
 ムルティフローラの城内には、複数の武器庫がある。
 そのひとつ、退魔の(くら)は「退魔の魂」と呼ばれる武器たちが収められていた。
 騎士団の備品管理は本来、装備局の担当だ。
 何故か、春の一斉点検だけは毎年、他部署に応援を要請している。
 ナイヴィスたちは退魔の庫に入る前、上司に注意を与えられた。
 「点検は目視で行う。決して本体に手を触れぬよう、気を付けるように」
 点検の項目は、武器が然るべき場所に納まっているか、【魔道士の涙】の輝きが失われていないか……の二点のみ。
 簡単な作業だ。すぐに終わる。
 「闇照らす、夜の(あるじ)の眼差しの淡き輝き、今、(とも)す」
 空調管理室長が、術で【灯】を点し、庫内の様子が鮮明になる。
 月光のようなやさしい光に照らされたのは、塵ひとつない清潔な空間だった。
 十人は、広大な庫内に分散し、手分けして点検作業を始める。
 ナイヴィスは、東から二列目の棚を担当した。

 あの春の絶望を思い返す内に、身体の疲れに引きずり込まれ、いつの間にか眠っていた。

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