■飛翔する燕 (ひしょうするつばめ)-09.魔剣の支配(2016年04月10日UP)

 ナイヴィスは、魔剣ポリリーザ・リンデニーの支配に逆らえないが、魔剣はナイヴィスの自由にならない。

 魔力を籠め、真名(まな)を呼んで命じた場合、命令そのものが呪文となる。
 強大な魔力を持つ者ならば、命令する言語が「力ある言葉」である必要すらない。
 魔法の命令への抵抗は、不可能ではないが、魔力・精神力での力比べとなる。
 四百年以上の時を生きた百戦錬磨の女傑と、齢二十七年の気弱な文官では、全く比較にもならない。
 魔法の命令を防ぐには、そもそも、真名を把握されないことが最良の策だ。
 お人好しのナイヴィスは、あっさり心を読まれ、真名を知られてしまった。
 魔法文明圏では、親しい家族や夫婦以外に、真名を明かす習慣がない。
 「あなたの真名を教えて下さい」は、求婚の常套句だ。

 ナイヴィスの真名は、サフィール・ジュバル・カランテ・ディスコロール。

 普段呼ばれている「ナイヴィス」は、家紋の「雪晶(ナイヴィス)」だ。
 雪晶は本来、「ニクス」だが、カランテ家は一族の本家なので、「雪晶の一族を統べる者」として、複数形で「ナイヴィス」と称している。ディスコロールは、母方の姓。
 従妹のワレンティナは、茜草が咲く頃に生まれた為、「(ワレンティナ)」と呼ばれているが、真名は勿論、別にある。
 家紋は「雪晶」を丸で囲んだ物だ。
 父方の親戚なので、ナイヴィス……青玉の光(サフィール・ジュバル)も、ワレンティナの父姓が「カランテ」なのは知っているが、他の真名は知らない。
 トルストローグの家紋は斧だ。
 生まれ日の星が「雪羊(トルストローグ)」なので、星の名を呼び名としている。
 ムグラーは「(ムグラー)」の深い日に生まれたので、天候を呼び名にしている。
 家紋は蝋燭の炎。
 ソール隊長は、ナイヴィス同様、家紋の「太陽(ソール)」で通している。
 舞い降りる白鳥の魔剣ポリリーザ・リンデニーは、真名の一部しか開示いない。
 ナイヴィスがどう頑張っても、読み取れなかった。
 そもそも、その「ポリリーザ・リンデニー」も、帳簿で確認したのだ。
 本人は〈リーザって呼ぶのよ〉と凄み、心を繋いだナイヴィスに、全く真名を読ませない。
 〈坊やが私に勝とうなんて、五百年早いわ〉
 ナイヴィスの脳裡で、魔剣がカラカラ笑う。
 ナイヴィスは、まだ若い。毎年老いて行く常命人種(じょうみょうじんしゅ)なのか、千年近い寿命を持つ長命人種(ちょうめいじんしゅ)なのか。
 祖父と母は長命人種、祖母と父は常命人種で、どちらに似たのかも、もう少し待たねばわからない。
 仮に長命人種だったとしても、天寿を全うできる気がしなかった。

08.魔獣の追跡←前 次→  10.不審な小屋
↑ページトップへ↑
【飛翔する燕】もくじへ

copyright © 2016- 数多の花 All Rights Reserved.