■飛翔する燕 (ひしょうするつばめ)-06.魔道士の涙(2016年04月10日UP)

 トルストローグは今年の一月、部隊最年少のワレンティナと共に、騎士の叙勲を受けたばかりだ。
 早い者は十四、五歳で叙勲を受ける。
 ムグラーも十四歳で叙勲を受け、正騎士となって今年で五年。
 トルストローグはそれまで、地方の町や村で遺跡の調査や旅人の護衛をして暮していた。
 その腕を認められ、騎士に取り立てられたのだ。
 二十五歳。ナイヴィスより二歳下だが、ずっと経験豊富だ。
 今も、畑に残された巨大な足跡の向きを見て、逃げた方向を正確に追っている。
 ワレンティナがあれこれ質問し、追跡のコツを教わりながらついて行く。
 ナイヴィスは、足跡の追跡をしたことがない。経験者に任せることにし、黙ってトルストローグの後に従った。
 七月の太陽が、カボチャ畑にくっきりと影を落とす。
 鎧の【耐熱】で、暑さは感じない。

 ……なんで、こんなことになっちゃったんだろう?

 歩きながら、あの日のことを思い返す。
 退魔の庫に収められた剣、槍、弓……その全てが、元は人間の英雄だ。
 儀式によって、自らの魂と結びついた呪具で魔物を倒し、寿命を終えた騎士達。
 魔力を持つ者を火葬すると、骨と魔力の結晶が残る。
 大きさは生きた年数に比例し、千年近い天寿を全うした長命人種ならば、子供の拳程にもなる。色、残留する魔力の強さと量、性質は生前のそれによる。
 その結晶は【魔道士の涙】と呼ばれる。
 魔道士の涙は、本人の遺志により、道具に加工されることもあった。
 本人の魂を封入することも可能だが、輪廻の理から外れる為、余程の事情がない限り、行われない。
 この庫の武器には全て、魂を封入した【魔道士の涙】が嵌め込まれている。
 つまりこの庫は、生前、自らの全存在を「三界の魔物」の打倒に捧げることを誓い、武器となった騎士達の墓所でもある。
 巡回中の警備兵が退魔の庫の傍を通ったら、話し声が聞こえた……などと言うのは日常茶飯事。いや、当然だ。
 「退魔の魂の方々は姿を変え……まぁ、第二の人生を歩んでおられる。待機に退屈しておいでのお方もいらっしゃる」
 ナイヴィスたち事務官は、固唾を飲んで上司の話に耳を傾けた。
 「話し声が聞こえることもあるが、返事はしないように」
 「何故ですか?」
 先輩の質問に、上司は待ってましたとばかりに答えた。
 「退魔の魂を使いこなすには、戦士としての技量の他に、特別な適性も必要だ。うっかり返事をしようものなら、大変なことになる。諸君らは、文官の分を弁えて、くれぐれも返事をせんように」
 彼らは命を終えた後も、武器となり三界の魔物と戦い続けることを選んだ騎士の鑑だ。
 そんな立派な英雄を無視するのは、失礼ではないか……
 そんな空気が流れたが、「大変なこと」の内容について、突っ込んだ質問をする者はいなかった。

 ……毎年、関係ない部署が点検するのって、お墓参り的な意味でもあるのかな?

 ナイヴィスは、過去の英雄を思い描きながら、上司に続いて庫に入った。
 同僚たちも同じ気持ちだったのか、口々に挨拶し、後に続く。
 武器庫の中は、淡い光に照らされていた。
 壁際や棚の武器……その【魔道士の涙】が、ぼんやり輝いている。赤、橙、黄、黄緑、緑、青、菫……様々な光に照らされた庫内は、想像していた墓所の辛気臭さとは、無縁の場所だった。

05.監視と追跡←前 次→  07.退魔の武器
↑ページトップへ↑
【飛翔する燕】もくじへ

copyright © 2016- 数多の花 All Rights Reserved.