■汚屋敷の兄妹-汚屋敷の兄妹 49.別れ (2015年08月16日UP)

 「後は畳四枚だけで終わりなんだよな。じゃ、俺達もう行くよ」
 「今までありがとう。……元気でね」
 俺と真穂は、揃って頭を下げた。藍ちゃんが意外そうな顔で聞く。
 「あれ? お昼食べて休憩してからじゃないの?」
 「早けりゃ今夜にはオヤジ達、戻ってくるし、もう行くよ」
 「落ちついたらメールするね。じゃあ」
 「そっか。元気でね」
 「風邪引くなよ」
 「幸せになるんだぞ」
 口々に別れの言葉が交わされ、俺達は何度も頭を下げて出て行った。
 屋敷神様にもご挨拶する。小さな祠はあたたかい光に包まれていた。
 もう二度と会わないのに、ゆうちゃんは何も言わず俺達を見送った。

 分家に置いていた荷物をまとめて、真穂に予備のヘルメットを渡す。
 叔母さんに昼ご飯を断って、別れを告げる。
 「真穂ちゃん、こっちは心配いらないから、受験、頑張ってね」
 「うん、ありがとう。落ちついたらメールするね」
 叔父さん、コーちゃん、政晶君と握手を交わして、雪道にバイクを走らせた。
 高速のサービスエリアでジャンクな昼飯を食べて、俺達はひたすら母さんの待つ街を目指した。万が一にも知り合いに行き先を知られないように、時々下道に降りて、わざと車が通れない細い道を走る。
 十駅離れた場所でバイクを止めて、電車で七駅移動。ショッピングモールの中を徒歩で通り抜けて、何カ所か店の中を通り抜けた。
 二駅分をバスに乗って、残り一駅分はタクシー。
 そうやって遠回りをしたから、母さんのアパートに着いたのは、夜遅くになってしまった。母さんは、起きて待っていてくれた。
 「おかえり」
 「ただいま」
 目のレンタル魔法は今日まで。母さんも真穂も、輝いて視えた。
 母さんの入院から初めての親子三人が、水入らずで過ごす夜だ。
 三人でコタツを囲んで、母さんの年越しそばを食べながら話す。
 古くて物が少なくて、裕福な部屋ではないけど、雑妖は居ない。
 除夜の鐘が、澄んだ音色を響かせて、今年の穢れを打ち祓った。

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