■汚屋敷の兄妹-真穂の12月25日〜12月26日 23.許婚(2015年08月16日UP)
みんなでガンガン物出しをしてると、畷(なわて)さんがやって来た。
「お? 真穂ちゃん、今年は島へ行かんが?」
「お祖母ちゃんが大怪我したんで」
私は慎重に言葉を選んだ。
「何、水臭ぇ。一言いってくれりゃ、手伝うたに。どれ、何運ぶが?」
畷さんは猫なで声で言いながら、ずかずか敷地に入って来た。畷さんに限らず、この辺の人は割と気楽に他人ん家に上がり込む。普通はそうじゃないって知ったのは、高校に入ってから。
「人数足りてますから、手伝ってくれなくて大丈夫です。身内だけで充分ですから」
「身内? そのガイジンも身内げ? 許婚(いいなずけ)の儂ぁ身内も同然が?」
「真穂ちゃん、この人のお孫さんと結婚するの?」
ノリ兄ちゃんが素で質問してくれた。
「あー、それ、この人、本人なんです。お祖父ちゃんとこの人が、勝手に盛り上がっちゃって、私、お断りしたんですよ。年が離れ過ぎてるから」
「ふーん。そうだよねぇ」
「何だお前は? 男は年取れば取る程、深みが増してイイんだ」
「何って、従兄です。お爺さん、どなたですか?」
「イトコ? あぁ、瑞穂ん子げ。俺はこの真穂の許婚、畷家の長男、稲造(いなぞう)だ」
畷さんはふんぞり返った。護衛の三枝さんが、ノリ兄ちゃんと私の前に立つ。畷さんは、ちょっと怯んで足を止めた。ノリ兄ちゃんが小声で確認する。
「真穂ちゃん、この人、好き?」
「生理的にムリ」
「畷稲造(なわていなぞう)が、山端真穂(やまばたまほ)に百歩以上、近付く事を禁止します」
ノリ兄ちゃんは冷たく言って、杖で畷さんを指した。畷さんが回れ右して、出て行く。
「お……おっ? おぉおぉおぉッ? 何じゃこりゃあ! 足が勝手に……!」
畷さんは訳のわからない悲鳴を上げながら、顔だけこっちに向けた。足はどんどんウチから遠ざかる。少し行った所で立ち止まった。振り向いて、足踏みしている。
「何しやがった! 壁を除けんが!」
壁なんてない。畷さんが農道の真ん中で足踏みしてるだけだ。
「名前を呼んで強制したんだよ。僕が禁止を解かない限り、真穂ちゃんに近付けないよ」
「ありがとう……ございます」
なんだかわからないけど、助けてもらっちゃった。魔法ってホント凄い。
畷さんは、暫く壁を叩くパントマイムをしてたけど、口汚く罵って帰って行った。ノリ兄ちゃんは、何事もなかったみたいにゴミ焼きの魔法を使った。
台所の物出しが終わって、ツネ兄ちゃんも選別を手伝いに来てくれた。
私はちょっと気になって、台所を覗いてみた。
手前の廊下に双羽さんとクロエさんがいる。二人は汚台所と戦っていた。
双羽さんが操る水に、クロエさんが洗剤を注ぐ。業務用サイズのボトル二本を含んだ洗剤水が、床を這う。一瞬で真っ黒になった。泡すら立たない。
泥水の汚れをゴミ袋に出して、もう一回、洗剤チャージ。洗剤水が床に突撃。また一瞬で汚泥化。
「あの、すみません。クロエさん、ちょっといいですか?」
双羽さんは、呪文を唱えながら頷いてくれた。クロエさんを庭に連れ出して、空になった棚をゴミ焼き円に運んでもらう。私は残す物をガレージに運ぶ。残す物は少なかった。雪が降るといけないから、売る物もガレージに入れる。
日没寸前、庭に出した物の選別が終わった。
双羽さんが出てきて、みんなを洗ってくれた。知らない間にドロドロに汚れていた。みんな疲れ切ってる。
一応、ゆうちゃんも呼ぶ。「っるせぇ! ブス!」しか言わなかったから、放置。
今夜は台所の灯を消して、戸締りして分家に引き揚げた。
三人の帰りをこたつでダラダラして待つ。
ノリ兄ちゃんは、クロエさんを黒猫に変えて、うんと可愛がっていた。正に猫可愛がり。黒猫はゴロゴロ喉を鳴らして甘えている。猫の時はちゃんと「猫」なんだ。私は変な所で感心してしまった。
夕飯を食べながら、お兄ちゃん達が色々説明してくれたけど、疲れ過ぎてて右から左へ抜けてゆく。
リサイクルショップの店長さんは、米治叔父さんの知り合いだった。
新品の食器以外は、値段が付かなかった。
捨てるのがアレなら、施設とかに聞いてみたらって、近くの老人ホームと児童養護施設と自立支援施設を調べてくれた。お兄ちゃんと叔父さんが手分けして問い合わせて、欲しいって言ってくれた所に寄付してきた。
クリーンセンターは、ギリギリセーフで間に合った。
帰りに畳屋さんに寄って、新畳を発注した。
「どうせ、腐っとるげな」