■汚屋敷の兄妹-賢治の12月26日〜12月28日 34.貯金(2015年08月16日UP)

 昼食後、コーちゃんと政晶君が、タオルと洗剤を白菜用のキレイな段ボールに詰めた。
 「どれ、お母さんも手伝お」
 「いいよ。俺らでやるから。なぁ、アッ君」
 「うん」
 結局、中坊二人で、箱詰めから宛名書き、料金計算、切手貼りまでやってしまった。
 その間、大人達は買物の相談をしていた。
 障子紙とローチェスト、小さい靴箱、小さい傘立て、ガスコンロ、洗い籠を買うのは、すんなり決まった。
 カラーボックスや大型家具、応接セットは買わない事も、満場一致で決まった。
 「布団は、一階にあった分、全部焼いたよな。買うのは祖母ちゃん、祖父ちゃん、豊一叔父さんの分でいいな。客用は要らないだろ」
 マー君が、指折り数えながら提案する。客用は、あっても黴て腐って、雑妖の苗床になるだけだ。真穂が追加する。
 「ゆうちゃんのも買い替えないと、お祖母ちゃん、自分用の新品、あげちゃうよ」
 「あれっ? 追い出すんじゃないの?」
 「追い出すにしても、『お布団ないと、ゆうちゃん寒いが』って、あげちゃうよ」
 使ってたのは真綿布団だったが、干すのに重いだろうって事で、丸洗い可能な軽量布団に決まった。
 オヤジの服は作業着以外、全部捨てた。下着類だけ買い足す事に決定。祖父母は、いつもの服だけ残してあるが、こちらも下着を買い足す事になった。
 ツネ兄ちゃんが、藍ちゃんのメモを見て聞く。
 「ゆうちゃんのはどうする?」
 「流石にそれは、あげないでしょ。買わないよ」
 「じゃあ、なしで」
 真穂の一言で、あっさり決まった。
 他に買い足す物は、祖父母用の小さい電気ストーブ一台と、アルバム用の小さい本棚ひとつ。掃除機は軽い縦置きタイプ一台。座敷箒と庭箒一本ずつと、それぞれ用のチリトリ。
 冷蔵庫は、年寄りばっかだし、そんな食わねぇだろって事で、小さいのに買い替え。
 食器棚は、一番小さいのを残したが、それでもまだ大き過ぎる。もっと小さいのに買い替えが決まった。
 奴らは空きスペースがあると、全力で要らない物を詰めて、埋め立てるからだ。隙間があるのは勿体ないって。充填目的で買って、使わない方が余程勿体ないのに。
 マー君、ツネ兄ちゃん、藍ちゃんの提案で、冷蔵庫と食器棚用の地震対策グッズとかの小物類も決まった。
 あれだけ物があったのに、まともに使える物は殆どなくて、買わなきゃいけない。
 買物リストがまとまると、みんなで溜め息を吐いた。

 コーちゃんと政晶君が、軽トラに寄付品を積む所までやってくれた。
 真穂と藍ちゃんは、マー君の車に乗せてもらって本家へ。売る物を積んで、リサイクルショップに行って、その金も足して、ジャヌコで買物。
 俺とツネ兄ちゃんも、郵便局の用が済んだら、ジャヌコで合流する予定。
 近在の郵便局に行って、知り合いに会うと何か言われそうだから、矢田山市内の大きい局へ持ちこんだ。
 俺は貯金窓口、ツネ兄ちゃんは郵便窓口。年末で割と混んでて、他の客に申し訳ない。
 小銭は重量の割に大した額はなかった。ジジイ共に取り上げられないようにしないと。
 俺と真穂の通帳は、どちらもまだ使えた。記帳してもらったら、満期が通常貯金に振り替えられていた。それ以外にも毎年、それぞれの誕生日かその前日に、十万円ずつ振り込まれていた。きっと、母さんだ。

 ジャヌコの駐車場に着いた時には、買出しもほぼ終わっていた。五人で手分けして、マー君の車と軽トラに荷物を積む。
 駐車場を出ると、電機屋さんの車が後ろにぴったりついて来た。
 冷蔵庫の設置は、プロが二人掛かりでしてくれた。マー君が「今すぐ設置できないんなら、要らない」ってムチャ振りして、係の人を連れて来たからだ。
 設置後、マー君は「無理言ってゴメンね」と爽やかに笑って、二人のポケットに万札を捻じ込んでいた。これは見習っちゃダメな大人だ。
 家電類は箱から出して、物置部屋へ。取り説と保証書もまとめて置いた。

 テーブルの上には、ラップが掛かった親子丼とおでんと味噌汁が一人分。ゆうちゃんはまだ寝てるらしい。
 電機屋さんが帰った後、冷蔵庫と食器棚の中身を新しいのに移した。段ボールや梱包材は庭へ。一升瓶もゴミに出した。
 俺がミニ本棚を組み立てている横で、真穂と藍ちゃんは、ミニ箪笥に祖母ちゃんとジジイとオヤジの服をきっちり畳んで仕舞っている。引出しは三段だけで、一番上は、タオルと手拭いとハンカチ、二段目に下着類と寝巻き、一番下に普段着や作業服。ジジイ用箪笥の一番には、通帳とかも入れた。
 祖母ちゃん名義の通帳は、後で本人に直接渡す。
 居間の電話は、畳替えの邪魔になるから、外して物置部屋へ移動。
 箪笥三つと本棚、座敷箒も物置部屋へ。布団はトイレの隣の納戸に入れた。畳替えの後で部屋に入れる。

 庭に出て、仕分けの続きをする。タオルと洗剤はもうない。後は売る物と捨てる物の仕分け。品名は箱やラベルに書いてあるけど、賞味期限は開けてみないとわからない。
 ノリ兄ちゃんが、梱包材や古い食器棚、冷蔵庫を燃やす。
 「ゆうちゃん、やっと起きたー! もう三時過ぎよー? ご飯は? 食べたの?」
 藍ちゃんが二階から覗いていたゴミニートに気付いた。ゴミニートは無言で窓を閉めた。
 みんな、ゆうちゃんについて何も言わず、過剰包装を解く作業に集中した。どんどんゴミ山が大きくなる。
 マー君が、「台所は終わってるし、座布団付けて来る」と中に入った。
 「鼠があれだけ居たと言う事は、天井裏も汚れているでしょうね」
 双羽さんの指摘に、俺達は背筋が凍った。
 「あ、水道使って下さい。使わないと錆びそうなんで」
 真穂が言うと、双羽さんは台所に向かった。俺は天井板をずらしに家へ走る。座敷箒の柄で、部屋の隅や押入れの天井板を動かして回った。双羽さんが、塩素系漂白剤を混ぜた水を天井裏に流す。案の定、一瞬で泥水化。
 「全く! ここんちは、どんだけ害虫飼育してんだよ!」
 台所でマー君が叫んだ。会話の内容はよく聞こえないが、マー君は鬼の形相で出て行った。何かホント、すんません。俺は双羽さんの横でゴミ袋を広げ、鼠の糞を受けとめながら、小さく溜め息を吐いた。
 廊下でクロエさんとゴミニートが、何か話している。ゆうちゃんの滑舌が悪くて、何言ってるかわからなかった。

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