■汚屋敷の兄妹-真穂の12月25日〜12月26日 24.発見(2015年08月16日UP)

 十二月二十六日。

 朝、起き上ろうとしたけど、筋肉痛が凄過ぎて声も出ない。何とか起きてそーっとトイレに行った。分家のトイレは、魔法で洗ってないのに、とってもキレイ。
 今日も頑張ろう。
 みんなで集まって朝ご飯を待つ間、ノリ兄ちゃんが歌を歌ってくれた。ムルティフローラの歌なのかな。不思議の響きの言葉が、女の子みたいに可愛くてやわらかい声に乗る。何言ってるかわからないけど、聞いてると元気が出て来た。筋肉痛でギシギシ言ってた体が隅々までほぐれて、元気の素みたいなのが行き渡る。
 歌い終わったノリ兄ちゃんは、三枝さんに支えられて座った。
 「ステキな歌ですね」
 「歌じゃないよ。ちょっとした怪我とかを治す呪文。経済が筋肉痛になったって言ってたから、みんなもついでに治したの」
 「えっ……えぇえぇーッ? 凄い! あ、ありがとうございます」
 菜摘ちゃんちで遊んだゲームの回復魔法、リアルで体験しちゃったよ。マジで体、超楽になったし!
 マー君が「早い方がいいよな」って言って、車三台に分乗してウチに行く。双羽さんと三枝さんが窓から身を乗り出して、夜の内に積もった雪を魔法で除ける。
 近所の人達が、びっくりした顔で見とれていた。そりゃそうだ。
 道と庭を除雪した水で、灰をゴミ袋に詰める。あんなにあったゴミも、灰になるとたったの五杯分。あっけなかった。

 物を除けて、わかった事がある。

 お祖父ちゃん達の部屋と台所の間には、廊下がある。
 台所は南北に細長くて、北半分は居間に面している。台所の入口は、玄関からまっすぐ伸びた廊下の突き当り。どう考えても、南が余る。
 お祖父ちゃん達の部屋の隣は、壁だと思ってた。よく見たら、立派な箪笥の裏側だった。
 廊下は、台所の手前で曲がり角になっていた。生まれて十八年、ずっと住んでたのに、知らなかった。
 クロエさんに手伝ってもらって、箪笥とか、廊下を塞いでいる物を庭に出す。
 今日は昨日のメンバーに、最初から叔父さんとマー君も居るから、更に早い。
 「何でこんな、隠し通路みてーになってんだよ。知らねーぞ。こんなの」
 お兄ちゃんも知らなかった。二十年以上埋まってたって事は、要らないって事だよね。立派な着物とか入ってたとしても、どうせ昨日みたいに虫の餌になってそうだし。中身を見ないでゴミ焼き円にどんどん持って行く。

 埃、蜘蛛の巣、虫、鼠の糞。
 もういい加減にして欲しい。

 野菜の大プラ籠を持って来て、朽ちた行李とか段ボールとかを入れて運ぶ。みんなで何往復もして、廊下の突き当りまで空にした。双羽さんに魔法で洗い流してもらう。
 廊下の突き当たりで、引戸を発見。やっぱり台所の南隣にも部屋があった。
 突き当りの戸は、何か引っかかってて開かなかった。台所の隣は、戸が少し開いている。
 お兄ちゃんが戸を開けて、双羽さんが魔法の灯を点した。
 たくさんの鼠が、驚いて部屋を走り回る。双羽さんがピシャリと戸を閉めた。私達はびっくりし過ぎて声も出せない。
 物置部屋って言うか、鼠の巣だった。
 「始末します。ゴミ袋をご用意下さい」
 双羽さんは冷静に宣言した。私達は言われるまま、ゴミ袋を取りに戻った。庭に出ると、曲がり角の先を埋めていた物も、灰にしてくれていた。
 「生き物がいっぱい居る部屋、掘り出したんだ?」
 「えっ? あ、あぁ、うん、はい」
 ノリ兄ちゃんに声を掛けられて、なんだかよくわからないまま頷いた。ガレージからゴミ袋の束を出して戻る。
 「終わりました。苦手な方は、ゴミ袋を置いて退がって下さい。クロエ、お前もです」
 米治叔父さんだけが、ゴミ袋の口を広げて待機。後はみんな台所に入った。

 台所は、小さい冷蔵庫だけがポツンと残っていた。これもひょっとしたら、後で捨てるかも。取敢えず、中身を空にして置いてある。
 ヘドロが詰まっていたシンクはピカピカ。天井も床も壁も、全く汚れが残っていない。
 ここって、こんなに広かったんだ……
 学食の厨房と同じくらいあるかもしれない。ガランとした台所の広さが寒々しい。
 叔父さんは、口を括った重そうなゴミ袋を両手に提げて、無言で庭に出た。
 げっ……あれ、全部鼠……
 双羽さんは顔色ひとつ変えず、クロエさんに命令して死体袋を運ばせた。
 水が、台所の隣室の床を洗っている。水は、数え切れない鼠の糞を含んで、黒い泥になった。私が水に洗剤を足して、お兄ちゃんはゴミ袋の口を広げて待つ。

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