■汚屋敷の兄妹-汚屋敷の兄妹 46.決定 (2015年08月16日UP)

 「構わん。本当の事だ」
 「私は今県外の大学に行ってて、就職もあっちでするつもりだから」
 「俺も別に無理して農業継がなくていいって言われてるし」
 「ウチは会社組織にしてあるから、どうしてもダメになったら、田畑は他の社員さんに引き継いで、引っ越して他所に就職するから」
 分家のみんなが、口々に言った。
 「俺たちは、そもそもここに住んでないからなぁ、縁切りやすいぞ」
 「……て言うか、当時三歳児だったし」
 「僕はもうすぐあっち行っちゃうから」
 巴家の三つ子は心底どうでもよさそう。当時生まれていない政晶君は、大人の言い分に頷いてる。
 「俺、もう遠くの会社から内定出てて、研修の後、海外勤務って言われてるんだ」
 「私も、昨日言った通りよ」
 お兄ちゃんと私も、他人以上に冷たく言ってやった。

 ゆうちゃんはじっと黙っていたけど、急に閃いた! みたいな顔をして得意げに言った。
 「いや、オレ、帝都の巴家に引っ越してやって、マー君の会社で働いてやってもいい」
 「は? 何言ってんの? ゆうちゃん、アタマ大丈夫か?」
 マー君が半笑いで言った。なんでそんな上から目線なの?
 「優一! それが人に物を頼む態度か!?」
 米治叔父さんが掌で座卓を叩いて立ちあがった。みんなが叔父さんに注目したけど、すぐ、ゆうちゃんに視線を戻した。
 「ゆうちゃん、あのさ、昨日の説明、聞いてたよね? ウチ、産業ロボットのメーカーなの。工学部の院卒レベルの専門知識がないと正社員は無理なの。経理はオレと、他社での経験も豊富な年配の社員で、二人とも簿記一級持ってるの。事務はベテランのパートさんに来て貰ってるから、ゆうちゃんみたいな未経験者、要らないんだよ」
 「いや、それは違うだろ」
 「何が違うんだよ? それに、ゆうちゃん、掃除も皿洗いもできないじゃないか。ウチに泊まってタダ飯食って散らかし放題って、今度はウチをゴミ屋敷にする気かよ」
 「いや、そんなの、メイドさん居るし……」
 「あれはウチのメイドじゃなくて、宗教の下僕だ。それに自分の部屋は各自掃除するのが巴家のルールだ。宗教も体調がいい時は自分で掃除してる」
 何もかも他人にやらせる気だったんだ。それであんな上から目線。何様のつもり?

 「まぁでも、ニートが一瞬でも働く気になったのは、よかったよな」
 お兄ちゃんが、ヨカッタ探しをした。それくらいしか、いい事がない。
 「優一君、本当に二度とここに戻らないくらい、必死な気持ちで帝都に出て、向こうで就職するのね? 本気で働く気になったのね? 頑張れるのね?」
 叔母さんが、噛んで含めるような口調で聞く。ゆうちゃんは、しどろもどろに答えた。
 「いや……まあ、オヤジ達がクロだったら、の話だ。もし、あれが本当にオ……オレのかっ……母ちゃん……で、あいつらが犯人だったら、オレはこんなクソ田舎捨ててやる。あんな家、継いでやらん。他所で働いて他所者になってやる!」
 「政治、経済、宗教……叔父さんからのお願いだ。一年……いや、半年でも三カ月でもいい。優一を下宿させてやって、帝都で就職活動させてやってくれないか? 家賃と食費は叔父さんが立替えるから……置いてやって下さい。この通り……」
 米治叔父さんが、上座からマー君達の横に移動して、土下座した。
 「叔父さん、顔をあげて下さい。米治叔父さんは、ゆうちゃんの親じゃなくて、藍ちゃんと紅治くんの親です。二人の学費に専念して下さい。米治叔父さんが犯人でないなら、そんな事しないで。ウチはそんな筋の通らないお金は要りませんし、変な方向の協力はしたくないし、責任も持てません」

 ツネ兄ちゃんが淡々と拒否した。そりゃそうだ。

 「あーでも、ゆうちゃん本人と、じいちゃん、ばあちゃん、豊一叔父さんの誰かが、ちゃんと頭下げて金出すって言うんなら、相談には乗るよ」
 「あの者は殿下に対して敵意を抱いております。不敬罪の償いも致しておりません。不穏な輩を殿下のお住まいに同居させる事は、承服致しかねます」
 マー君が、ゆうちゃんの顔を見てニヤニヤ言う。双羽さんは静かに怒っていた。
 黒猫のクロエさんは、ぬいぐるみ遊びをやめてノリ兄ちゃんの顔色を伺っている。
 「就職活動ってどんな事するの?」
 ノリ兄ちゃんの質問に、社長のマー君が最近の就活事情も交えて答えた。
 「ふーん。じゃあ、政治達がいいんなら、僕も別に構わないよ」
 マー君の説明で、何か納得したらしいノリ兄ちゃんに、双羽さんが異議を唱える。
 「だって、僕も大学とか病院とかで平日は留守だし、ゆうちゃんが一階の客間に泊まって、二階に来ないんならいいかなって……不敬罪とか、ずっとお母さんに、ゆうちゃんと似たような事言われてたし……どうせ僕の事なんて……面倒臭いから、もういいよ……」
 「もし、家賃と食費の支払いが滞ったり、ゆうちゃんが暴言吐いたり部屋汚したりしたら、即、追い出して、自力で戻って来られない場所に捨ててくればいいよな」
 マー君が冗談か本気かわからない事を言って、ツネ兄ちゃんに同意を求めた。
 「まあ、まだ何も分かってないし、決まってないし……」
 ツネ兄ちゃんは態度を保留した。双羽さんは眉間に皺を寄せて黙っている。
 「少なくとも、白黒付ける事は決まったな。じゃあ、歌道寺さんに相談して、祭壇のお骨を引き取って貰えるように、頼んで来よう」
 米治叔父さんが話題を変えて座敷を出て行き、親族会議はお開きになった。

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