■汚屋敷の兄妹-賢治の12月26日〜12月28日 32.倉庫(2015年08月16日UP)

 実家に戻ると、作業は大幅に進んでいた。仏間は物が全部出て空っぽ。ちらっと見たら畳の一部は腐っていた。床板も心配だ。
 ツネ兄ちゃんと藍ちゃんが、庭で選別作業をしている。
 俺達は、買って来た物を家に入れた。正式な設置は、畳替えの後。ひとまず居間へ。
 真穂がゆうちゃんに「手伝ってくれてありがと」と言ったが、ゴミニートは無言だった。やっぱ、ゆうちゃんも捨てないと、祖母ちゃんは幸せになれない。
 仏壇はキレイになっていた。ノリ兄ちゃんに言われて、双羽さんが洗ってくれたそうだ。ホントなら俺達がしなきゃいけないのに、申し訳なさ過ぎる。
 トイレの隣の部屋も空になっていた。ここは五畳くらいの板の間だった。納戸だろう。三枝さんが、残っていた雑妖を斬っている。
 二階に上がると、ゴミニートは戸を閉めて巣に籠っていた。

 俺達は黙々と二階の廊下から、物を排除する。
 部屋の戸を塞ぐ本棚には、古びた百科事典がぎっしり詰まっている。奥付の年代は、オヤジが子供の頃。内容が古過ぎて話にならない。立派な事典や図鑑、全集が入っているが、読んだ形跡はない。読んでちゃんと勉強していれば、あんな粗野で学のない大人になってない。立派な本は全て、雑妖の苗床と化していた。
 カラーボックス、段ボール箱、木箱……全部、内容を確認する必要もない。
 三枝さんに軽くしてもらって、本棚ごと運ぶ。魔法で軽くすれば、真穂でも楽勝で運べる。三枝さん、マー君、俺、真穂、クロエさんでバケツリレー的に二階の廊下をからっぽにした。
 双羽さんが丸洗いしつつ、雑妖を退治してくれる。

 本棚に埋もれていたのは、襖だった。クロエさんが開ける。古い埃と一緒にヘドロと雑妖が、雪崩のように溢れた。
 俺の目には物体が見えない。視野いっぱいにヘドロと雑妖。もうホントいい加減にして欲しい。
 双羽さんと三枝さんが、天井を魔法で洗って雑妖を倒す。
 霊感ゼロのマー君と真穂が、入口付近の段ボール箱を持って降りた。空いたスペースを双羽さんが洗い、三枝さんがそこに流れ込んだ雑妖を斬る。
 魔法使い二人には、魔法に専念してもらった。俺達は、ひたすら物を外に出す。ツネ兄ちゃんと藍ちゃんには、二階の物の仕分けは断り、倉庫の物を出してもらう。
 二階の開かずの間は二部屋あり、どちらも和室だった。中身は全て不用品。ガラクタや、何か憑いてる古い節句飾りや、箪笥だった。ここも押入れに黴布団と終わってる座布団。アルバムは朽ちていた。

 俺の部屋の物は、もう全部要らない。今日、改めてゴミとして捨てた。
 真穂は、元々少ない荷物の中から必要最小限だけ、ジャヌコでもらったキレイな段ボールに詰め、他は全て捨てた。
 ゆうちゃんの部屋は本人にやらせる。

 庭に出て、倉庫の物出しに参加する。俺達が物を出す間、ノリ兄ちゃんはゴミを焼いてくれていた。
 現役の農機は、畑の小屋に置いてある。倉庫には、ほぼ壊れた物しかない。部品を取ると言って、ジジイとオヤジが捨てない。その為の工具と農薬と肥料とプラ籠と手作業用の鎌や鋤が乱雑に入っていて、どこに何があるかわからない。破れた筵、ボロボロのマルチ、ハウスの曲がったフレーム、壊れた発電機とかどうしようもない物も入っていた。
 まず、壊れている物を全て捨てた。それから、同じ種類の物を集める。
 「現役の肥料とお薬は、畑の小屋にあるから、ここの口開いてるのは、捨てちゃおうよ」
 真穂が言い、開封済みの物は全て捨てた。ホントは農薬を捨てるのに面倒な手続きが必要だ。今は、ノリ兄ちゃんに焼き尽くしてもらうから、気にしない。太陽の端っこの炎で、ダイオキシンが発生する余地もない。全て無害な灰になる。
 工具は、同じ物が幾つも出て来た。
 錆びたり曲がったりしてるのは、捨てた。それでも複数残る。どうせ、見当たらなくて買った方が早いと思ったんだろう。
 無駄遣いする癖に、必要な出費は惜しむ。家族の為に金を使わない。学費も医療費も「勿体ない」の一言で切り捨てる。農作業では、散々こき使われた。ジジイとオヤジにとって、自分以外の家族は奴隷なんだろう。
 たくさんの工具を見ているとイライラして来た。一番新しそうな物だけ一個ずつ残し、他は全て捨てた。
 空になった倉庫を双羽さんに洗ってもらう。
 工具を工具箱に納め、未開封の肥料と農薬、手作業用の農具、籠を種類毎に分けて、棚に収納する。
 「倉庫って、こんな……広かったんだ」
 「そうだな」
 俺と真穂は、うんざりした顔を見合わせた。ノリ兄ちゃんはゴミ焼き、ツネ兄ちゃんは、残った家電の動作チェック。

 仏間と納戸にあった物で、使えそうな物を居間と隣の和室に置く。
 それまでに発掘したバラのガムテープや紐も、ジャヌコでもらった段ボールに種類毎に入れた。部屋の奥だと取りにくいから、廊下に近い場所に並べる。
 居間にゴミ袋があった。何かと思って覗いたら、服だった。ゆうちゃんは洗ってもらった後、放置してるんだ。コメントする気にもなれない。
 真穂がバスタオルを一枚、脱衣所の籠に入れた。
 「ゆうちゃん、お風呂の入り方、覚えてるかな?」
 「さぁなぁ?」
 藍ちゃんが呼んでくれたが、ゴミニートは返事をしなかった。すっかり暗くなった農道をゆうちゃん抜きで分家に向かう。
 朝から分厚い雲が空を覆っていたが、何とか持ちそうだ。そう言えば、ここ数日、日中は全然降らない。夜中にまとめて降って、夜明け前には止んでる。
 ひょっとして、屋敷神様……?

 今夜はトンカツ定食っぽい晩ご飯。ノリ兄ちゃんだけ鶏雑炊。叔父さんも農作業から戻って、ゆうちゃん以外、全員集合。
 「ゆうちゃん、今夜もあんな所に一人なんだねぇ」
 真知子叔母さんが、ラップを掛けながら言った。ゆうちゃんの分だ。今夜はマー君が本家に持って行ってくれた。ちょっとは働いたみたいだし、まぁいいか。
 「ゆうちゃんも発生源だから、居心地いいんじゃない?」
 「ゆうちゃんのお部屋も、あんなに散らかってるの……」
 ノリ兄ちゃんの返事に、叔母さんは溜め息を吐いた。そう言う意味じゃない。物理の汚部屋もだけど、ヘドロと雑妖の発生源なんだ。それがわかるのは、ノリ兄ちゃんと、眼を借りてる俺だけだ。言っても不快なだけだから、俺は黙ってお茶をすすった。
 「箱が傷んでても中身がキレイなら、ペットNPOが洗剤とかタオルとか、引き取ってくれるらしいよ」
 コーちゃんがA4の紙を差し出す。宿題の合間に調べてくれたのか。
 「ありがとう」
 「何か調べたかったら、どんどん言ってくれよ!」
 お礼を言うと、コーちゃんと政晶君は目を輝かせた。
 「ネットで遊んどらんで、勉強せいや」
 「バレたか」
 すかさず叔父さんが釘を刺す。何となく面白くて、みんなで笑った。

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