■汚屋敷の兄妹-真穂の12月25日〜12月26日 25.居間(2015年08月16日UP)

 ツネ兄ちゃんとマー君と藍ちゃんとクロエさんには、台所の隣にある居間の物出しをしてもらう。
 使ってる部屋だけど、人が住めるレベルじゃない。
 鼠の糞を受けた袋は、すぐにずっしり重くなった。床と天井がキレイになる頃には、袋は八割方いっぱいになった。鼠の尿臭が目にしみる。
 私がゴミ袋を捨てに行き、お兄ちゃんは物置の中身を運び出す。私と叔父さんもすぐに戻って、物出しに取り掛かった。
 壊れた扇風機や古いテレビ、ラジオ、何に使うかわからないくらい古い家電製品、段ボール、衣裳ケースとかがぎっしりで、全部に鼠の尿臭が染みついていた。
 表面を洗っただけじゃ取れないらしい。マスク越しでもキツイ。目にしみて涙が出る。
 重い物はクロエさんに頼んで、他は身内で運んだ。

 「居間の物は全部汚いから、現役のテレビとこたつ本体以外、捨てて」
 こたつ布団は、お祖父ちゃんとお父さんの食べこぼしだらけ。
 こたつの上も、ダイニングテーブルとほぼ同じ。古新聞、古雑誌、蜜柑の皮や汚れた食器、灰皿、お菓子の袋、郵便物、紙袋、割り箸、調味料が乗ってる。ご飯の時だけ、ちょっとスペースを開ける。
 畳の上は、足の踏み場もない。ゴミはポイ捨て。煙草の吸殻も山盛り。服は脱ぎ散らかして、山になってる。スナック菓子やおつまみの袋は、半分くらい残ってても次を開けるし、台所に置ききれない食器も隅に積んである。古新聞、古雑誌も山積みで、その山が崩れた上に更に積んでる。勿論、掃除できないから、埃だらけ、抜け毛だらけ。
 カーテンと壁紙もヤニでベタベタ。
 蛍光灯の笠もヤニで茶色い。上には埃の山。
 テレビのリモコンはどっか行ってるから、手動でチャンネルを変えてる。リモコン必須の機能は、使った事がない。
 エアコンのリモコンもどっか行ってて、冷房と暖房の切替は手動だけど、それ以外は点けっ放し。資源の無駄遣いしまくり。
 テレビ台の上には、もう使えない古いテレビと、現役の薄型テレビと、壊れたビデオデッキが乗ってる。畳の上には、台の中に入りきらないビデオテープが溢れてる。録画するだけで満足して、もう絶対見ないだろうに、捨てさせてくれない。デッキが壊れても、修理に出さない。
 DVDレコーダを買ってきたけど、使いこなせなくて、埃を被ってる。失敗したDVDと箱買いした新品が、これまたてんこ盛り。
 冬も暖かいから、年中ゴキブリが居る。暖かいのに蜜柑を段ボール箱に入れて置いてるから、すぐ腐る。何、このゴキブリ無限増殖システムは?

 物置部屋の物を出しながら、居間の惨状を思い出して、申し訳なさで泣きそうになる。全部出し終えてすぐ、野菜の大プラ籠とスコップを持って居間に入った。
 ツネ兄ちゃん達は、新品のDVDと切手と商品券を発掘して、捨てないようにどけてくれていた。もうそんな丁寧にしてくれなくても、全部捨ててくれるだけで充分なのに。有難過ぎて泣きそうになる。
 「リモコンが埋まってるだろうから、探しながらやってるんだ」
 マー君に言われてやっと気付く。それかぁ。使わないのが普通だったから、忘れてた。
 「エアコンとか、買い替えるからいいです。気にしないで」
 私は宣言して、スコップで汚洋服の山を掘った。雪かきよりキツイ。精神的な意味で。
 どんどん籠とゴミ袋に詰める。三人もガンガン捨ててくれた。
 藍ちゃんが、長押に掛けっ放しだった作業服を除けた。ハンガーも錆びてるから、ゴミ袋にポイ。その下から襖が出て来た。襖の足元には、カラーボックスが四つ。全部、雑誌とビデオテープがぎっしり。
 DVDと切手と商品券は、マー君の提案で売る事になった。現役のテレビと、発見したリモコンふたつと、こたつ本体だけガレージに入れる。
 他は全部捨てた。
 蜜柑の腐汁で、畳も腐っていた。新品を発注してもらっててよかった。
 双羽さんは、鼠の巣だった物置を洗った後、念入りに熱湯ですすいでから、業務用サイズの塩素系漂白剤を三本、冷水に混ぜて消毒してくれた。

 居間の隣の部屋は後回し。
 先にお祖父ちゃんお祖母ちゃんの部屋を片付ける。
 物置の消毒が終わった双羽さんが、居間の丸洗いを始めた。
 「ここは通帳とか、大事な物があると思うから、慎重に行こう」
 マー君が、社会人らしい忠告をしてくれた。
 プライバシーとか気にしてる場合じゃない。
 部屋は、入口の襖以外、全部箪笥に囲まれていた。老夫婦にこんなに服が要る訳ない。実際、いつも同じ服をローテーションしてるし。箪笥に入りきらないのか、床にも服の山があって、畳が見えない。
 箪笥の上にも、置物とか箱とか積んであって、地震が起きたら絶対ヤバイ。
 布団は敷きっ放し。
 小さい卓袱台の上には、ごちゃごちゃ物が乗っている。足の踏み場どころか、天井以外に隙間がない。
 「普段着てる服は気に入ってると思うから、それだけ残して後は全部捨てて下さい」
 「箪笥に重要書類仕舞ってたりするから、一段ずつチェックしてから捨てような!」
 マー君に言われると、そうせざるを得ない。
 まずは床を開ける為に、物を外に出す。現役の服は、私がピックアップ。他のみんなが、その他の物をゴミ袋に入れる。私はピックアップした物をガレージに運んだ。

 ノリ兄ちゃんが、ゴミの山を焼いていた。
 駐在さんと消防団長さんが、敷地の外から呆然と白い炎が踊る黒い柱を見上げている。
 炎と柱が消えて、灰の山が残った。何回見ても凄い。三枝さんが水を操って、灰を溶かす。私はゴミ袋を広げて、灰捨てを手伝った。
 我に返った二人が、ノリ兄ちゃんに声を掛ける。
 「朝から精がでますな」
 「殿下、もし、後で何か言われたら、我々におっしゃって下さい。真穂ちゃん達もな。祖父ちゃんに怒られても、我々は真穂ちゃん達の味方だ」
 駐在さんの言葉が嬉しくて、涙が込み上げる。
 家族よりも、他人の方が優しくてあたたかい。
 私は何も言えなくて、二人に深く頭を下げた。
 「住人には説明しましたげ、何人か『本人が直接挨拶せい』ってゴネましてね。殿下、申し訳ありやせんが、後でお時間、頂戴できませんでしょうや?」
 消防団長さんが、ノリ兄ちゃんに精一杯の敬語で言った。きっと、畷さんだ。ノリ兄ちゃんは普通にOKしてくれた。気さくな王子様……
 段ボールを抱えた叔父さんが出てきて、夕方、区長さんの家に集まる事に決まった。二人はノリ兄ちゃんと叔父さんに何度も頭を下げながら、帰って行った。
 午前中だけで、台所、廊下、物置部屋、居間と、お祖父ちゃんお祖母ちゃんの部屋の半分が片付いた。半分って言うのは、押入れはまだだし、箪笥を除けたら襖が出てきて、もう一部屋あったから。
 コーちゃんと政晶君が、ご飯に呼びに来た。灰袋を軽トラに積んで、分家に引き揚げた。

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