■汚屋敷の兄妹-真穂の12月25日〜12月26日 20.衛生(2015年08月16日UP)

 びっくりしてばかりもいられない。大掃除をしに戻る。
 メンバーは、お兄ちゃん、私、ツネ兄ちゃん、双羽さん、クロエさん、藍ちゃん。お兄ちゃんが用意した装備を持って、本家へ。
 マー君とノリ兄ちゃんは疲れてるから、お昼寝。三枝さんは護衛。コーちゃんと政晶君は、宿題。
 歩きながら、ツネ兄ちゃんが掃除の段取りを説明してくれた。
 「状態があれだから、先に中の物を全部出そう。一カ所ずつ集中して、空にしてから掃除。最低限の所なら、トイレ、お風呂、台所、お祖母ちゃんの部屋の順番で。他は余力があればやろう」
 「トイレとお風呂は先にちょっとやったから」
 「そうか。じゃ、日がある内に終わらせよう」
 お兄ちゃんが言うと、ツネ兄ちゃんは空を見上げた。雲が出て、空はどんよりしている。

 ウチに着いてすぐ、藍ちゃんが感動して叫んだ。
 「すっごいキレイになってる!」
 「うん。みんなで頑張ったから」
 「この調子で、残りも頑張ろう」
 体洗って、ご飯食べて休憩したから、かなり元気になった。
 廊下が通りやすくなったから、作業は大幅に楽になってる。
 この流れなら、大丈夫。イケる。
 藍ちゃんは、キレイな廊下に土足で上がるのを遠慮してくれた。でも、どうせ作業で汚れるからって説得して、土足で上がってもらった。全員、ゴム手袋とマスクを装備して、ゴミ屋敷に突入する。後で洗ってもらうから、レインコートはなし。
 「そうだ。双羽さん、私達が運んでる間、トイレ掃除してもらっていいですか?」
 「構いませんが、宜しいのですか?」
 「はい。魔法でお願いします」
 お兄ちゃんが、クロエさんに荷物運びの指示を出す。魔法じゃなくて、元がアレだから力持ちだったんだ。手伝ってくれるなら、私にとってクロエさんは天使だ。

 五人で、トイレ内に積み上がった過剰在庫の段ボールを庭に出す。
 双羽さんは、西隣の畑から雪を取って、洋式トイレの掃除を始めた。洗剤湿布を剥がした水が、くるくる渦を巻いて、トイレットペーパーをゴミ袋に捨てた。私は段ボールを置いて、キレイになった水に、湿布にしたのと同じ洗剤を足す。双羽さんは頷いて、トイレ掃除を再開した。
 トイレの在庫出しと、洋式トイレ掃除は、ほぼ同時に終わった。壁や窓硝子のヤニが取れて、白く輝いている。金属パイプに顔が映る。便器も尿石が取れて真っ白。タイルの黴もなくなって、マスク越しでも吐きそうだったあの臭いもしない。魔法凄い。
 新品のペーパーをセットして、ふわふわのタオルを掛けて、終了。
 手洗い場の収納も空にして、男子トイレ&手洗いコーナーも、双羽さんにお願いした。
 五人と魔法使いで集中したら、「終わってる汚トイレ」が、あっという間に普通の家レベルになった。テンションが上がる。

 「よし、次、お風呂!」
 お兄ちゃんが言って、脱衣所に積み上がった段ボールを下ろす。
 「双羽さん、お風呂掃除お願いします。塩素使ってるんで、水だけでして下さい。すみませんけど、そこのタオルは全部捨てて下さい」
 「了解」
 軍人らしいキビキビした返事。つられて私の動きもキビキビする。五人でどんどん在庫の箱を出す。倉庫の前に在庫の段ボールが積み上がって、壁になる。
 脱衣所の段ボール壁の後ろに、カラーボックスが幾つも埋まっていた。カラーボックスの上にも段ボールが積んである。こんなのがあるから、狭いんだ。
 カラーボックスの中身は汚いから、全部捨てた。小さい虫がいっぱい居る。
 カビだらけのカラーボックスも捨てた。在庫の山をどうするか、後で考えよう。
 今は、とにかく出す。洗面台の収納の物を庭に出す。
 体が芯から熱くなって、汗が流れる。みんな無言でひたすら運んだ。
 こんなにたくさん、一生掛かっても使い切れる訳がない。
 双羽さんは、風呂場を天井までキレイにしてくれた。
 全く黴がない。経年劣化でちょっと塗装が剥がれてるけど、浴槽もタイルもピカピカだった。塩素臭もない。カラフルなヘドロもない。
 古びた洗面器も、あんなにしつこくこびり付いていた湯垢が取れている。
 私は、まだ新しい箱から、シャンプー、リンス、石鹸をひとつずつ出して置いた。
 空になった収納棚に何を入れるか、後で考える。
 洗濯機と乾燥機も、コンセントを抜いて庭に出した。洗濯機と乾燥機があった場所は、埃、髪、虫、糞、死骸のカオスだった。よくトラッキング火災にならなかったな、とツネ兄ちゃんが呆れる。
 空っぽで黴だらけの脱衣所掃除も双羽さんにお願いした。双羽さんは嫌な顔ひとつせず、脱衣所のカオスを一掃する。魔法の水が、逃げる虫を一匹残さず捕まえる。
 ツネ兄ちゃんが、双羽さんを庭に呼んだ。汚れを取り除いてから、電源を入れて動作チェックするらしい。

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