■汚屋敷の兄妹-汚屋敷の兄妹 43.発見 (2015年08月16日UP)

 「やあ、どうもどうも、おはようさん」
 庭に白バイと分家の軽トラが停まって、駐在さんと米治叔父さんが降りてきた。
 「朝早くから恐れ入ります」
 「暮れのお忙しい時に申し訳ございません」
 ノリ兄ちゃんとマー君が駐在さんに頭を下げた。みんなも会釈して駐在さんを迎える。
 「あー、いえいえ、とんでもない。殿下、そんな、こちらこそお世話になります。平和なとこで年末警戒って言っても何もありませんで」
 駐在さんは騎士達に会釈し、ノリ兄ちゃんの前で直立不動の姿勢で敬礼した。
 「で、ホトケさんは、どちらのお部屋でしょう?」
 「仏間の二つ隣のお部屋なんですけど……鑑識の到着を待った方がいいかなって……」
 「もうそろそろ着く頃かと思うんですが、なにぶん、この雪で……」
 駐在さんが恐縮して、ノリ兄ちゃんにペコペコ頭を下げる。
 「じゃあ、他の事をして待ってます。……ゆうちゃん、これ、燃やす前に視てくれる?」
 ノリ兄ちゃんが、ゆうちゃんに近付く。黒猫が肩の上で器用にバランスを取る。ゆうちゃんの右手を両手で包み込んで、小声で呪文を唱えた。一瞬だけ視えるあれだ。
 ゆうちゃんが情けない悲鳴を上げる。尻餅をついたまま何メートルもゴミ山から逃げた。
 「ゆうちゃん、このお家はね、要らない物や、使われずに朽ちた物や、虫や動物の死体がいっぱい詰まってて、そう言うのを苗床に雑多な妖魔が涌いたり、他所から来て住みついたりしてたの」
 ノリ兄ちゃんが淡々と説明する。

 私とお兄ちゃんは、換気しに家に入った。手分けして雨戸を開けて回る。
 ノリ兄ちゃんが、ゆうちゃんの最後のゴミを魔法で焼いてくれる。昨日、あんなに酷い事言われたのに。ノリ兄ちゃんって凄く心が広い。双羽さんが水の魔法で、ゆうちゃんの部屋を浄化してくれた。
 私達は双羽さんと一緒に庭に出た。駐在さんの無線が鳴る。ノリ兄ちゃんに敬礼して、白バイで農道を走って行った。
 灰を軽トラに積みながら、お兄ちゃんが説明する。
 「明日、畳屋さんが来る。おばあちゃんには分家に泊まってもらう。ジジイとオヤジは早ければ明日の夜、遅くとも元日の夕方までには戻ってくると思う」
 「じいちゃん達は俺が呼び戻したんだ。元日に会いたいって言って」
 マー君が付け加えた。

 白バイが白黒のワンボックスを引率して戻って来た。
 「お待たせ致しまして恐れ入ります。殿下、お手数お掛け致します」
 「こちらこそ、お忙しい時期にお呼び立て致しまして恐縮です。恐らく時効が成立済みで立件できず、身元確認だけになるかと思いますが、宜しくお願いします」
 整列して敬礼する警察の人達に、ノリ兄ちゃんは大人の口調で言って丁寧にお辞儀した。
 ノリ兄ちゃんを先頭に双羽さん、三枝さん、警察の人達、身内がぞろぞろ続いた。
 縁側に沿って庭を歩いて、仏間と座敷の前を素通りして、閉まったままの引き戸の前で立ち止まる。
 「このお部屋です。室内の骨には触らないで下さい。多分、ここはその骨を閉じ込める為のお部屋です。それに触って何かあっても、僕には何もできませんから、気をつけて下さい。お部屋の入口に近い、床下に埋まっている人を出してあげて欲しいんです」
 ノリ兄ちゃんが、淡々と怖い事を説明する。
 「真穂ちゃん、藍ちゃん、あっち行っとこう」
 ツネ兄ちゃんが小声で呼ぶ。三人と叔母さんがそっと離れる。軽トラの前まで戻って、パトカーの傍に残るお巡りさんの所に行った。
 「私達も、ちょっとよくわからないんですけどね……」
 「子供の頃、幽霊の声が聞こえるって言ったら、ひっぱたかれましたし……」
 事情を聞かれて、叔母さんとツネ兄ちゃんが、歯切れの悪い説明をした。スコップの音が聞こえる。
 「出ました」
 お巡りさんの硬い声に続いて、鑑識のシャッター音が響いた。

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