■汚屋敷の兄妹-真穂の12月25日〜12月26日 18.紹介(2015年08月16日UP)

 分家の前で、ノリ兄ちゃんがみんなに言った。
 「おなかすいたでしょ? 詳しい話はご飯の後にしようね」
 真知子叔母さんは、ちょっと驚いた顔をしたけど、すぐにいつもの笑顔になって、迎えてくれた。縁側に面した客間に通される。

 座卓二台に肉じゃが、カラアゲ、サラダ、ホウレン草のおひたし、白菜の味噌汁、炊きたてご飯が、ほかほか湯気を立てていた。
 ノリ兄ちゃんが、部屋の隅に杖を立て掛けて、こっちを向いた。黒猫を抱っこしている。ペットも連れて来たんだ。後で私も抱っこさせてもらおう。
 「あれっ? クロエさんは?」
 全員座ると、お兄ちゃんがキョロキョロした。
 ノリ兄ちゃんだけ、鶏のササミと梅肉とシソのおじやだ。脂っこいのはNGみたい。
 「ケンちゃん、クロエに用事?」
 「えっ? 用って言うか、ご飯……」
 「ご飯はなくても大丈夫だよ」
 「えっ?」
 ノリ兄ちゃんは、面倒臭そうに言った。何なんだろう。王族とメイドは一緒にご飯たべちゃダメとか、身分的な何かなのかな? それは確かに面倒臭い。席も余ってるのに。
 上座の座卓に叔父さん、マー君、ツネ兄ちゃん、ノリ兄ちゃん、政晶君、お兄ちゃん、コーちゃん、藍ちゃんと私、下座の卓に叔母さん、双羽さん、三枝さんが座った。
 「猫ちゃん連れて来たの? キャットフードは?」
 「いらないよ」
 真知子叔母さんの質問に、ノリ兄ちゃんが答える。流石にそれは持って来てるか。いつものじゃないと、食べない子もいるし。

 改めて自己紹介してから、箸をつけた。名乗っただけだから、謎の人のままだ。お誕生日席に座った叔父さんが、取敢えず、よく知ってる身内に話を振る。
 「マー君、久し振りだな。ツネちゃんも。えーっと……宗教君と政晶君は初めましてだな。みんな、今、何しとるが?」
 「俺は大学ん時に会社興して、今もその社長。経済は技術部長。宗教は大学の准教授。政晶は中二」
 まだ半分寝てる声で、マー君が答える。社長って凄い。叔父さん達も感心してる。
 「凄いな。何の会社だ? ウチも相変わらず農業だげ、会社組織にしてな、ヨメに経理やってもらっとるが」
 「産業ロボットとか作ってるんだ。工場で使う業務用の一点モノ」
 「へぇー、何やわからんが、凄いげな。宗教君も若いのに大学教授なぁ、凄いげな。何教えとるが?」
 双羽さんは箸を上手に使ってるけど、三枝さんは無理みたい。スプーンで食べてる。黒猫はお行儀よく座っていた。かわいい。
 「教授じゃなくて、准教授ですよ。術理解析学が専攻で、魔法の仕組みとか教えてます」
 「……へぇー……全くわからんが、何やら凄いげな。学生さん、魔法使いなれるが?」
 「魔力がないと無理ですよ。でも、魔力の水晶とか補助具があれば、何とかなるかも」
 あ、凄い。ホントに魔法使いの弟子、育成してるんだ。進路変更、しちゃおっかな?
 「ノリ兄ちゃんのお勤め先って、何大学ですか?」
 「帝国大学魔道学部、帝都だよ。ちょっと遠いね」
 「あ、そ、そうなんですか、すごーく遠いですね」
 学力的な意味で遠過ぎる。最高学府。東の帝大、西の古都。この国の二大最高峰の一個。私じゃどう頑張っても無理。凡人は、普通に、地道に生きるしかないか。
 「魔法に興味あるの? この近くなら、商都の水都大学とその隣の神扉大学にも魔道学部があるよ」
 「あ、いえ、ちょっと聞いてみただけなんで、あはは……」
 どっちも私じゃ無理だ。ハイレベル国立大。

 会えなかった時間を埋めるように、あれこれお喋りしながら、楽しく箸が進む。
 ウチの食事風景とは、全然違う。
 会話なんてない。お祖父ちゃんかお父さんが、一方的に勝手な事言うだけで、私もお祖母ちゃんも、返事以外で喋ったら怒られる。
 今のこれこそが、家族の会話だよね、本物の。
 みんなが大体、食べ終わる頃、ツネ兄ちゃんが思い出したように言った。
 「そろそろ説明する?」
 「ん? あぁ、そうだね。あの人達どうしよう? お巡りさんに一一〇番……」
 ノリ兄ちゃんが暢気に言う。お兄ちゃんがすかさず待ったを掛ける。
 「あ、集合掛けますんで、ちょっと待って下さい」
 叔父さんに固定電話を借りて、お兄ちゃんが区長さんに掛けた。叔母さん、藍ちゃん、私で後片付けをする。双羽さんが手伝いを申し出てくれたけど、丁重にお断りした。
 片付けが終わって、お茶の用意をした所に、大笹消防団長の車が来た。四人が入って、席を移動する。
 上座のお誕生日席は叔父さん。廊下側の席は上座から、ノリ兄ちゃん、マー君、ツネ兄ちゃん、政晶君。縁側の方に区長さん、大笹さん、駐在さん、大山さん。双羽さんと三枝さんは、ノリ兄ちゃんの後ろに立ってる。叔母さんは、お茶のおかわりを淹れるから、ポットの傍。藍ちゃん、コーちゃん、お兄ちゃん、私は下座席に着いた。

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