■汚屋敷の兄妹-賢治の12月26日〜12月28日 31.質問(2015年08月16日UP)

 十二月二十八日。世間は今日が御用納めだ。

 俺達の今日の予定は、玄関の隣の仏間、トイレの隣の小部屋、時間があれば、二階の廊下と使っていない部屋を片付ける。
 マー君と真穂は、ジャヌコへ買出し。ついでにゆうちゃんに散髪させる。俺はクリーンセンターに灰を持って行って、ジャヌコで合流する。
 雪が積もった農道をノリ兄ちゃんに合わせて、ゆっくり歩く。双羽さんが魔法で除雪する。雪の中で白菜を収穫していた近所の婆さんが、話し掛けて来た。
 「ケンちゃん、あんたとこ、誰ぞおるが」
 「多分、ゆうちゃんだから、大丈夫です」
 「ゆうちゃんも帰っとったが?」
 婆さんの質問に答えられずにいると、マー君が爽やかに言った。
 「本人に直接、お尋ね下さい」
 それを聞いて、近くの畑の人達も、作業を中断して農道に出て来た。質問した婆さんは、勿論ついてくる。次々畑から出てきて、実家に着く頃には、俺達も入れて二十人近くに膨れ上がった。
 庭に居たのはやっぱり、ゆうちゃんだった。昨日はなかったゴミ山の前で、こっちをぼーっと見ている。
 このゴミニートは相変わらず、ヘドロの塊で、雑妖に集られていた。ゴミ山もヘドロと雑妖に隙間なく覆われて、物が何かすら、わからない。ヘドロは、折角清めた庭に充満している。夜中にひとりでゴミ出し頑張ったのは、褒めてやりたい所だが、こいつも所詮、ゴミ屋敷作成者だ。労いの代わりに反吐が出そうになったので、黙っている事にした。
 「あれま、ホンにゆうちゃん」
 さっきの婆さんが、心底驚いた声で言った。それを皮切りに、近所のお年寄り達から、ゆうちゃんにとって痛い質問が容赦なく浴びせられる。仕事、住所、結婚、子供の有無。ゆうちゃんの母親みたいに行方不明になったかと心配していた云々。
 ゆうちゃんは固まってしまった。
 「ゆうちゃん、これ、全部一人で出したのか?」
 「いや、お……おう。まぁな」
 ゴミニートは、ツネ兄ちゃんには返事をしている。何なんだよ、コイツ。
 マー君が助け船を出す。
 「皆さん、ゴミ焼き、今からでもできそうですけど、見物して行かれますか?」
 みんなの注意が逸れた隙を突いて、ゴミニートは巣に帰った。近所付き合いもロクにできない分際で、本家の跡取りを名乗るな。
 近所の人達は、ノリ兄ちゃんのゴミ焼き魔法を間近で見て、驚いたり感心したりしている。双羽さんが水の魔法で灰を片付けると、大満足で農作業に戻った。
 三枝さんが、庭中に散らばった雑妖を斬り捨てて回る。俺とツネ兄ちゃんで、昨日と今朝の灰袋を軽トラに積む。
 真穂と藍ちゃんが、開けられるようになった窓と雨戸を開けに行く。
 「ゆうちゃんの部屋のゴミ、多分、あれで全部じゃないかな? すみませんが、部屋の丸洗いお願いします」
 マー君が言うと、双羽さんはクロエさんに何か指示し、水を連れて家に入った。

 縁側に面した各部屋の障子は、破れてボロボロだ。雑妖とヘドロが縁側に流れ出ている。親父の隣の部屋だけ、障子ではなく木戸だ。マー君が、枠にへばりついた紙を剥がす。
 ツネ兄ちゃんが仏間だと言った部屋は、枠の向こうに箪笥とかがぎっしり詰まっているのが見えた。
 マー君は、障子紙が入ったゴミ袋を置き、家の奥に入った。
 ゆうちゃんの部屋の雨戸が開いた。
 灰を積み終わった俺とツネ兄ちゃん、ノリ兄ちゃんが見上げる。
 ヘドロと雑妖が、外壁を伝ってドロリと垂れた。まるで泥の糸。
 ゴミ袋を被せた段ボールを抱えて、クロエさんが庭に出て来た。続いて、清水を連れた双羽さん。それから、ややあって、マー君がゆうちゃんを引きずって来た。真穂と藍ちゃんも出て来る。
 俺は、軽トラにブルーシートを掛けた。
 真穂がマー君の車の助手席に座る。マー君は、ゴネるゆうちゃんを力ずくで後部座席に押し込んだ。俺も軽トラに乗りこむ。

 ショッピングセンタージャヌコへの案内看板の所まで先導し、俺はクリーンセンター、マー君の車はジャヌコへと分かれた。
 クリーンセンターの受付のおっちゃんに顔を覚えられてしまった。
 「よお。頑張ってるな」
 そのたった一言が胸に染みて、ただただ頷いた。すぐにセンターを出て、ジャヌコへ向かう。クリーンセンターは、大勢の人の色んな想いがこびり付いた物がいっぱいで、息苦しかった。

 ジャヌコの駐車場で、マー君に電話した。丁度、散髪が終わったらしい。フードコートで落ちあう事に決まった。真穂にその旨、メールする。
 フードコートに入ると、マー君はカウンターの行列に並んでいた。俺と真穂も最後尾に加わる。
 マー君は、ゆうちゃんに席取りさせていた。ゴミニートが役に立ってる。まぁ、普通の目には人間に見えるもんなぁ。ゴミニートは相変わらず、ヘドロを纏っていた。
 俺達がヤキソバとかを持って席に着くと、隣の席から女子高生グループが話し掛けて来た。真穂の知り合いだ。目当てはイケメンのマー君か。何かわかりやすいなぁ。
 真穂に紹介されて、俺とマー君は軽く挨拶したが、ゴミニートは無言。ヘドロが濃くなっただけだ。
 真穂が、祖母ちゃんが怪我して介護リフォームする事になったから、旅行はキャンセルした、と説明する。
 女子高生達は心底同情して、手伝いを申し出てくれた。いい子達だ。巻き込む訳にはいかない。ゴミニートのヘドロから雑妖が噴出した。
 マー君が女子高生に話し掛けられ、話を合わせて軽く笑う。大人の余裕。俺から見てもカッコイイ。ゴミニートは更に激しく雑妖を放出している。
 食欲が失せたが、食べないと動けないので、なるべく視ないようにして、黙々と食べた。
 真穂がサービスカウンターに預けていた品を手分けして車に運ぶ。マー君が、ゆうちゃんにも手伝わせた。
 カーテン、こたつ布団、座布団……今日は細々した物が中心。家具や家電は、次回の予定。支払いには、色々売った金と発掘した金を充てた。

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