■汚屋敷の兄妹-汚屋敷の兄妹 45.会議 (2015年08月16日UP)

 マー君が、ゆうちゃんに聞いた。
 「晴海叔母さんだったとしたらさ、もう時効だし、誰が何やってたとしても罪には問えないんだけど、ゆうちゃん、これからどうする?」
 「いや……だっ……誰が、何をしたって……?」
 「鈍いなー。当時同居してた家族の誰かが、叔母さんを殺して埋めたんだろ。多分。で、それを知った上で、ゆうちゃんは、これから何処でどうやって生きてくつもり?」
 口を固く閉ざしたゆうちゃんに、マー君が更に言い募る。
 「ゆうちゃんは、これからも人殺しと同居できるの?」
 「最悪、ヒキニートの飼育が面倒になったら、殺して埋めるかもな?」
 「賢治! いくら何でも言い過ぎだ!」
 「あーハイハイ。でも、ゆうちゃんには、このくらい言わないとわかんないよ?」
 米治叔父さんに窘められても、お兄ちゃんは全く悪怯れずに言った。
 「ゆうちゃん、あのね、さっき言ってた雑妖、もうひとつ苗床があるの、知ってる?」
 ゆうちゃんは、黙って睨みつけるだけだ。
 「人の心だよ。昨日、ゆうちゃんが怒ってた時、ゆうちゃんからいっぱい出て来てたよ」
 ゆうちゃんは、自分の手を見た。
 「もし、あのままずっと本家が汚れたままだったら、ゆうちゃんも、お家にあった物と同じように、誰の役にも立てないまま、ただそこに存在するだけで、病葉のように朽ちてしまうところだったの。体の外に憑いてる弱いのは丸洗い魔法や、普通のお風呂で取れるけど、心の中から出てくるのは、自分で何とかしなきゃいけないの」

 ノリ兄ちゃんが、優しく質問する。
 「ゆうちゃんは、お母さんをどうにかしちゃった家族を許せるの? もし、恨みながら一緒に暮らすなら、ゆうちゃんの心は、アレに乗っ取られちゃうよ」
 私は、蜜柑を剥きながら言った。
 「私達はもう縁を切って二度と帰ってこないけどね」
 「どうせ二十年くらい農業ノータッチなんだし、事件起こす前に家、出たら?」
 お兄ちゃんが、ゆうちゃんを完全に犯罪者予備軍扱いする。
 「優一が、おばあちゃんの介護をしたくないなら、おばあちゃんはウチで引き取る。他所で就職したいなら、気兼ねも心配もせんでいい」
 米治叔父さんが、座卓に身を乗り出して言った。ゆうちゃんは、だんまり。
 「アハハ! 介護はイヤだけど、就職もヤダって顔してる〜」
 藍ちゃんがゆうちゃんの顔を見て笑った。
 「時間が経ち過ぎてて身元の照合に数日掛かるし、警察は任意の事情聴取しかできない。誰が犯人かなんて今更わからないだろうけど、それはそれで精神的に良くないと思う」
 ツネ兄ちゃんが、蜜柑の汁が飛んだ眼鏡を拭きながら言った。
 「僕が魔法で強制すれば、本当の事を言わせる事はできるけど、どうするのが一番いいのかな?」
 ノリ兄ちゃんがみんなを見回す。みんなチラチラ視線を交わして、最後にゆうちゃんを見た。ゆうちゃんは、無言で睨み返すだけ。本家の長男だって言うんなら、何か意思表示して欲しいんだけどなぁ。

 米治叔父さんが重々しく口を開く。
 「俺は宗教君の魔法の力を借りてでも、あの三人に当時の事を確認した方がいいと思う」
 冷めきった番茶をすすって口を湿らせ、言葉を続ける。
 「何も知らないなら、誰の仕業かはわからんが、少なくとも家族の潔白は証明される。知ってて黙ってたなら、身内の恥だが近所の人達と、晴海さんの実家にも知らせて、晴海さんの名誉を回復せにゃならん。間男と駆け落ちしたふしだらな女扱いのままじゃ、浮かばれないからな」
 ゆうちゃん以外の全員が頷いた。
 「い、いや、ちょっと待て、クロだったら、オレら犯罪者の身内で、村八分だぞ!?」
 ゆうちゃんが、慌てて反論する。

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