■汚屋敷の兄妹-汚屋敷の兄妹 42.変身 (2015年08月16日UP)

 十二月三十日。

 気がついたら、もう朝だった。昨日はムカついて眠れなくなるかと思ったけど、そうでもなかった。疲れてたせいか、すぐに寝落ち。
 大晦日の前に全部片付くとは思わなかった。みんなに大感謝。
 今日の予定は、灰をクリーンセンターへ、売る物をリサイクルショップへ、私の私物を矢田山市内から発送して、帰りにお祖母ちゃんに報告。
 朝ごはんの後、ノリ兄ちゃんが意外な事を言った。
 「昨日、警察呼んだから、多分、今日来ると思うよ」
 ホントにゆうちゃんを逮捕してもらう為に……? みんな、何も言えない。
 「知り合いの刑事さんに、床下に埋まってる死体の相談したら、ここの県警に連絡してくれたんだよ」
 「死体?」
 「多分、ゆうちゃんのお母さんだよ」
 床下に……って、行方不明じゃなくって、誰かに殺されて埋められて、私達はずっとその上で生活してたってこと? 頭が真っ白になった。
 「現場検証とかあるけど、今日はお家でする作業はないし、いいよね?」
 いいよねも何も……えーっと……えーっと…………
 今日は、叔母さんも本家に来てくれた。叔父さんが、駐在さんに説明しに行く。コーちゃんと政晶君は分家でお留守番。

 庭にゴミの山ができていた。ノリ兄ちゃんが、倒れた本棚に話し掛ける。
 「ゆうちゃん、そんな所で何してるの? 風邪引くよ?」
 「えっ? ゆうちゃん、崩れたゴミの下敷きになってんの?」
 「間抜けねー」
 私と藍ちゃんは呆れてしまった。
 「黒江、本棚を除けて、ゆうちゃんを出してあげて」
 「かしこまりました。ご主人様」
 今朝のクロエさんは、スーツをきっちり着こなした執事型の「黒江」さん。琥珀色の瞳は同じで、五十代くらいの落ちついた雰囲気が漂う燻し銀系の男前。声も低くて渋い。
 本棚を除けて、ゆうちゃんのジャージの襟首を掴んで、片手で軽々と吊り下げた。
 「黒江、ゆうちゃんを降ろしてあげて」
 「かしこまりました。ご主人様」
 襟首から手を放されたゆうちゃんは、そのまま地面に座り込んだ。そりゃ、びっくりするよね。
 「ゆうちゃんは自分のクズさ加減に気付いて、ゴミの仲間入りしてたのかもよ?」
 「えーっ? 流石にそれはないんじゃないかなー?」
  マー君がニヤニヤ笑って、ゆうちゃんを見降ろす。私は半笑いで否定した。
 「ゆうちゃん、もうすぐ警察の人が来るから、立ち会い宜しくね」
 ノリ兄ちゃんが言うと、ゆうちゃんは一瞬固まって、全然関係ない事を聞いた。
 「いや、それより、メイドさんは?」
 「クロエ? そこに居るけど? ゆうちゃん、疲れてるみたいだし、お掃除は後でいいよ」
 「いや、掃除じゃなくって……」
 「宗教、ゆうちゃんは説明の時、居なかったからわからないんだよ」
 「あ、そっか」
 ツネ兄ちゃんに言われて、気が付いたみたい。
 「ゆうちゃん、クロエを見ててね。クロエ、女中になって」

 ポンッ

 紙袋が割れたような音と同時に執事さんが消えて、メイドのクロエさんがそこに現れた。
 「クロエは僕の下僕なの。お掃除とか頼む時は女中の形で、他の用事の時はさっきの形で、用事のない時と寝る時は、にゃんこの形にしてるの。ホントの形も見てみる?」
 ノリ兄ちゃんに聞かれて、ゆうちゃんは反射的に頷いた。
 「クロエ、元の形に戻って」
 ポンッと言う音の後、例の猫っぽい悪魔が現れた。ホントは悪魔じゃなくて人工的に作られた魔法生物。
 「クロ、おいで。だっこしよう」

 ポンッ

 巨大な悪魔が消える。黒猫がしっぽをピンと立てて、嬉しそうにノリ兄ちゃんに駆け寄った。ノリ兄ちゃんが、飛びついた黒猫を抱き上げて、頭を撫でる。黒猫は琥珀色の目を細めて、ゴロゴロと喉を鳴らした。

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