■野茨の血族-14.検査 (2014年12月10日UP)

 馬車の中での話を総合しても、力があった方がいいのか、ない方がいいのか、政晶には判断し兼ねた。
 どうせ、父さんに似て何の力もないんやろし、今更どないしようもないしなぁ……
 白馬の杖を持った国王に連れられ、天幕に入りながら、政晶は腹を括った。天幕の中では、壮年の男性と、文官らしき若い男性が待っていた。
 国王、政晶、鍵の番人、大使の四人が入ると、出入口の幕が下ろされた。
 年配の男性が近付いてきた。見た事のない花を象った杖をついてる。湖北語で何か言われたが、全くわからない。
 「お体のどこかに王家の紋章がある筈です。痣の場所を指差して下さい、と凍てつく炎がおっしゃっています」
 大使の通訳に頷き、政晶は左腋の下を指差した。凍てつく炎と呼ばれた男性が、服を脱ぐような身振りをする。政晶は頷いて了解すると、貫頭衣と上着を脱ぎ、左手を挙げた。
 国王、鍵の番人、凍てつく炎が注目する。
 政晶は、隠し続けた痣に視線を注がれ、額にイヤな汗が滲んだ。
 鍵の番人が発言し、国王と凍てつく炎が同意を示した。文官が書類に何か書き込む。
 「お召し物を」
 大使に手渡された服を身に着けると、すぐに天幕の外に出された。王が杖を高く掲げて宣言すると、家臣達の間に安堵が広がった。
 「この鏡にお手を触れてから、塔の扉を開けて下さい」
 「塔の内部を映すモニタなんだよ」
 大使が、鍵の番人の言葉を訳し、黒山羊の殿下が補足した。
 いや、どうせ入口で仕舞いやから、いらんねんけどな。
 そう思いながらも、言われた通り、鏡面に掌を当てた。水面に小石を投げ込んだような波紋が広がり、思わず手を引っ込める。鏡は鎮まり、政晶の青ざめた顔を映し出した。
 鍵の番人に手を引かれ、右の塔の前に立たされる。隣に立った凍てつく炎が、身振りで扉を手前に引いて開けるよう、促した。
 政晶は、ひとつ大きく息を吐いて覚悟を決め、王家の紋章が描かれた両開きの扉に手を掛けた。背後から人々の緊張が伝わり、把手を握る手が震える。
 扉は何の抵抗もなく開き、政晶は勢い余って数歩後退した。
 塔の内部は、灰色の石壁に囲まれた狭い部屋だった。正面の壁にまた扉がある。
 「中の扉は全部押して開けるの。七十枚で王位継承権、九十五枚で三人の巫人の資格が与えられるのよ」
 いや、別にそんなんいらんし。日之本で普通の人生送りたいゎ。
 三つ首山羊の王女の声を背に受け、政晶は無理だとわかっている扉に手を掛け、押した。
 予想通り、びくともしない。
 それでも一応、体重を掛け、全力で押して見せてから振り向いた。
 家臣達の反応は様々だった。無表情が最も多く、明らかに落胆している者も居れば、侮蔑の目を向ける者も居る。
 身内は少し寂しそうな顔で、政晶を迎えた。
 凍てつく炎が、政晶の髪をくしゃくしゃ撫でた。
 「念の為に確認しただけだから、気にしなくていいよ」
 叔父が、使い魔の背を撫でながら優しい声で言った。黒猫は場の空気などお構いなしに、喉を鳴らして主人に甘えていたが、横目でちらりと政晶を見ると、小馬鹿にしてフンと鼻を鳴らした。
 「クロッ、めッ!」
 使い魔は、主人に叱られると耳を伏せ、恨めしげに政晶を睨んだ。
 王が厳かに宣言し、家臣達はぞろぞろと解散した。
 「さ、お昼ご飯にしましょ」
 三つ首山羊の王女が明るい声で言った。

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