■野茨の血族-34.浄化 (2014年12月10日UP)
薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔の剣、日の箭霊呼び、弓弦鳴らせ。
視界の外なる焔光陽炎纏い、慧し剣、儺やらい、穢れ討ち、裡なる碍断て、慧し剣。
魔の目貫け、慧し剣、儺やらい、魔滅せ。
日々に降り積み心に澱む塵芥、洗い清めよ、祓い清めよ。
薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔の剣、日の箭霊呼び、弓弦鳴らせ。
視界の外なる焔光陽炎纏い、慧し剣、儺やらい、穢れ討ち、外なる碍断て、慧し剣。
魔の目貫け、慧し剣、儺やらい、魔滅せ。
夜々に降り積み巷に澱む塵芥、洗い清めよ、祓い清めよ。
政晶を遠巻きにするドブ水が、沸々と泡を弾けさせ、何事か呟く。その言葉は政晶に届かず、虚しく夏空に吸い込まれてゆく。
薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔の剣、日の箭霊呼び、弓弦鳴らせ。
視界の外なる焔光陽炎纏い、慧し剣、儺やらい、穢れ討ち、裡なる碍断て、慧し剣。
日々に降り積み心に澱む塵芥、洗い清めよ、祓い清めよ。
視界の外なる焔光陽炎纏い、慧し剣、儺やらい、穢れ討ち、外なる碍断て、慧し剣。
夜々に降り積み巷に澱む塵芥、洗い清めよ、祓い清めよ。
ドブ水が退き、政晶の足許の床が露わになる。広場に描かれた魔法陣の術が発動する。若者達が残して行った穢れ……負の感情が中立の魔力に変換され、政晶に注がれる。左腋の紋章から熱い何かが湧きあがり、全身を駆け巡る。政晶は剣を振るいながら、建国王と声を合わせて呪文を唱える。
「薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔の剣、日の箭霊呼び、弓弦鳴らせ。
射交矢、祝的し、祓えども心許すな。
三界の魔誘う深淵の螺旋、我欲の沼を出で祓い清めよ。
射交矢、祝的し、祓えども心許すな、日の箭霊呼び、弦打ち残心せよ。
射交矢、祝的し、祓えども心許すな、日の箭霊呼び、弦打ち残心せよ」
この世のモノである政晶の生気に満ちた声が、魔力を得て穢れを退ける。魔法陣の第二の術が励起する。
この世ならぬ瘴気が、烈日の矢と建国王の剣に切り裂かれる。政晶が詠じる呪文の力の顕現に触れ、三界の魔物が発した瘴気が霧消する。
「薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔の剣、日の箭霊呼び、弓弦鳴らせ。
日の箭霊呼び、弦打ち残心せよ。
薙ぎ祓え、祓い清めよ、破魔の剣、日の箭霊呼び、弓弦鳴らせ。
日の箭霊呼び、弦打ち残心せよ」
足許から、光が渦を巻いて起ち上がる。三界の魔物から流れ出た瘴気が、光の奔流に呑まれた。
変換された魔力が、政晶の体に注がれる。魔力は政晶から剣に流れ、建国王の涙に溜まる。建国王は政晶に動作を指示し、力の流れを制御する。
瘴気が光の奔流に分断され、祭壇の広場に散らばり、染みのように漂っていた。何処にも行けない閉じた空間で、宙を彷徨っている。力を失い、行き場を失い、逃げ惑う。
光は熱を持たない炎のように揺らめく。政晶と建国王が示す方向に流れ、瘴気の染みを舐め尽していった。
広場の瘴気が全て消え去った事を見届け、政晶は剣を天に掲げた。足許の魔法陣は沈黙し、術は間もなく終わる。光が竜巻となって天に突き刺さり、夏空に溶けるように消えていった。
呪歌が終わり、余韻が谺する。政晶はその余韻を魔法陣の中央で聴いていた。
体に残っていた魔力が建国王の涙に移る。激しい疲労と脱力感を覚え、剣を持つ手がだらりと下がった。
今更のように、肩で息をしている事に気付き、目を閉じてゆっくりと呼吸を整える。
〈よくやった。浄化は完了した。有難う〉