■薄紅の花 01.王都コイロス-04.魔法生物 (2015年05月09日UP)

 双魚達の家は、移住者なので、王都コイロスの外れに建っている。
 王都の中心部は旧市街。街が大きくなるに従い、同心円状に外壁が増築され、大釜家のある最外縁の市壁は、七枚目だ。
 中心の王都まで、徒歩で三時間余り掛かる。
 「その蓋、開けるのに、物凄い魔力が要るから、お前にゃ無理だぞ」
 「父さんは?」
 「俺だって無理さ。中身を充分、養えるくらい強い魔力の持ち主にしか、開けられないようにしてあるんだ」
 「へぇー……」
 双魚は素直に感心して、瓶を見た。
 魔法生物は、契約した主(あるじ)の魔力を糧に活動する。
 食物からも活力を得られるようにもできるが、協定では、禁止とまでは行かないが、推奨もされていない。
 魔法生物一体につき、主は一人だ。一度契約を結べば、生涯、その人物に仕え、二君に見えることはない。
 契約者である主が死亡すれば、魔法生物は餓死する。自然には存在しない、魔法仕掛けの一世代限りの命。
 反対に、遠く東の地や、三界の魔物が生まれたアルトン・ガザ大陸では、魔力を使わない新たな技術が、発展しつつあると聞いたことがある。
 魔力なしで何かをする技術と聞いても、双魚には想像もつかない。
 「あ! 書類!」
 「書類?」
 「仕様書。取りに帰るから、先、行ってろ。すぐ追いつく」
 それだけ言い残し、父は【跳躍】した。知っている場所へ、瞬時に移動する術だ。街には泥棒避けの結界がある為、大通りなどの決まった場所でしか跳べない。
 父の姿が消え、双魚は通りに取り残された。双魚には、まだ【跳躍】の術は使えない。
 ここで待っていても仕方がない。
 第六壁の門を目指して歩き始めた。馬車一台分の細い通りから、狭い露地を抜け、大通りに出る。
 空には薄雲が絹のベールのようにかかり、ぼんやり霞んでいる。
 大通りは、野菜などを積んだ荷馬車や、夕飯の食材を求める主婦が、のんびり行き交っている。その間を小さな子供達が駆け回り、ぶつかった大人に叱られていた。
 不意に、体が宙に浮いた。

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第01章.王都コイロス
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