ときのいわふね 18.遺物(2016年07月17日UP)
〈……御遣いの龍さまは、川に……我らを置いて、ミナカミ様の許へ、帰ってしまわれたのではありませぬのか?〉
「龍はまだ戻らない。何があったんだッ?」
ある区画の岩に印をつける時、山から地鳴りが聞こえ、大きなミヅチが現れ、龍を連れて行った。
前の日に、北の山には黒い雲がかかっていた。あれは恐らく、龍を迎えに来たミヅチの乗り物だったのだろう。
その時、四人の若者が従者として連れて行かれた。
後には、ミヅチが運んで来た大きな岩が残り、川はその姿を変えてしまった。
〈再び村に
「何だってッ? 龍は勝手にうちを飛び出して、自力で帰れなくなってたんだぞッ!」
「遣わすも何もあるかッ! あいつはただの人だ。あなた方が求めるような力なんて、何にも持ってなんかないんだ!」
教授と学生が、怒りを向けられ萎縮する老人の息使いを、記録している。
「あの龍に、暴れ川を鎮めるなんて、できっこないんだ! 龍を帰せッ! 戻せよッ! 今に!」
時は無情に過ぎ去り、黄昏の光が薄らぎながら、角度を変える。
村長の影は、畏まったまま、夕闇に消えていった。
気が付くと、
「
ムラオサ。
治水工事。
鉄砲水……
日が沈み、底冷えする廊下で、
白く凍る息を吐きながら、常盤は
教授と学生が、観測記録を開示すべきか、小声で相談している。
……龍はもう、いない……
卒業から三年。
隣のおばさんは、以前通りではないものの、薬を飲まなくてもよくなった。
水上(みなかみ)家も隣の
年内最後の開館日、
たくさんの埴輪が並ぶガラスケースの前に、
元々、連絡先の交換さえしていない間柄だ。卒業後どうしていたのか、お互いの消息に全く関知していない。
常盤は、いつからここにいるのか、ひとつの埴輪をじっと見詰めている。
祭司なのか、他の埴輪より一回り大きく、異質な装飾が施されている。胴の真ん中に、縦一列に三つ、小さな丸が並び、首のすぐ下には三角形が二つ、過度を合わせて斜めに配置されていた。
何より目を引くのは、その埴輪の目が、他より明らかに大きく、四角いことだ。
目と目の間は、細い線で繋がれている。
埴輪は右手を上げ、左手を身体の横へ水平に伸ばして立っていた。
「水上(みなかみ)さん……」
常盤は再会の挨拶もなく、ガラスケースを指差した。
「この埴輪……」
眼鏡を掛けている……
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