■01-汚屋敷の兄妹-お歳暮 03.お肉が(2015年08月30日UP)
「そろそろ【保存】の効果が切れる頃ですので、冷蔵庫に入れた方がよろしいかと……」
言いながら、双羽(ふたば)さんが、青でびっしり模様が描かれた麻袋の中身を引っ張り出す。
内容物は、羊肉の腸詰(ソーセージ)だった。
ずるずる、ずるずるずる、ずるずるずる……
双羽さんが、どんどん腸詰を引っ張り出す。真知子叔母さんが、端を受け取って巻き取る。
黒猫の形になった使い魔のクロは、興味なさそうに欠伸をした。
どんどん、ずるずる出て来た腸詰は、全部で十メートルくらいになった。
叔母さんの手の中で、消防ホース級の巻きが、ずっしりとした存在感を放つ。
これが、もう一袋……
真知子叔母さんが恐る恐る、近衛騎士の双羽さんに質問する。
「冷蔵庫に入りきりませんので、ご近所にお裾分けして、よろしいですか?」
「結構ですよ。あ、その前に……」
双羽さんは袋に手を突っ込んで、動物の後ろ脚を一本、引きずり出した。
「鹿の燻製です」
叔父さんが区長さんに電話した。
その間に藍ちゃんが腸詰を少し切り取り、保冷袋に小分けして、冷凍庫に片付ける。
叔父さん夫婦は、大量のソーセージと、脚丸ごとの生ハムを二本、抱えて行った。
二人が区長さん宅に着く頃には、区長さんから地区のみんなに連絡が回って、集合しているだろう。すぐに配り終えて戻って来る筈だ。
マー君が露骨に嫌な顔をして見せる。
「冬場だからって、生モノこんな大量にって、ちょっとした嫌がらせだろう」
「政治(まさはる)、そう言うこと言うなよ。こっちの常識を忘れてるだけなんだから」
「人数がわかんないから、ちょっと多めに入れてくれたんだよ。足りないより、いいんじゃない?」
ツネ兄ちゃんとノリ兄ちゃんが、王女様である曽祖母(そうそぼ)をフォローした。
俺も言い添える。
「こっちじゃ、羊のソーセージも鹿のハムも、珍しいから、みんな喜ぶと思いますよ」
「俺、羊ソーセージって、初めてなんで、スゲー楽しみです!」
育ち盛りのコーちゃんが、元気いっぱいに言った。
「左様でございますか。恐れ入ります」
双羽さんが少しホッとした顔になった。
予想通り、二人はすぐに戻って来た。パンパンに膨らんだ紙袋をふたつずつ提げている。
中身はお返しのミカンやお菓子だった。
真知子叔母さんが、早速、戴いた香草茶を淹れる。