■01-汚屋敷の兄妹-お歳暮 01.お歳暮(2015年08月30日UP)

 十二月二十五日。
 夕飯後、こたつでまったりしていると、双羽(ふたば)さんが改まった口調で、分家の真知子叔母さんに言った。
 「申し遅れましたが、三つ首山羊の王女殿下より、お歳暮をお預かりしております」
 「お歳暮……ですか?」
 「はい」
 真知子叔母さんは面食らって、それ以上言葉が出てこない。
 米治(よねじ)叔父さんがテレビを消し、みんなで双羽さんに注目する。
 ムルティフローラ王国近衛騎士団赤い盾小隊の小隊長、女騎士の双羽さんは、上着の内ポケットから巾着袋を引っ張り出した。
 弁当箱サイズで、ポケットティッシュくらいに膨らんでいる。生成りの生地に文字みたいな模様が、緑色でびっしり染付(そめつけ)されている。
 双羽小隊長は、巾着の紐を緩めて、逆さにして振った。

 ドサドサドサ、ドスッ

 そこそこ重量感のある音を立てて、畳の上に色々な物が落ちた。最後に、A5判くらいの紙が二枚、ひらひら舞い落ちる。
 どう見ても巾着袋の容量を超えている。
 双羽さんは、袋をキレイに畳んで、内ポケットに仕舞った。
 部下の三枝(さえぐさ)さんが、畳にばらまかれた品々を、こたつの上に並べる。
 同じ物がふたつずつ。山端(やまばた)家の本家用と分家用なんだろう。

 紙には、ペンで「お歳暮」と大書してあった。その下に花と、首が三つある白山羊の印章が捺してある。
 「曽祖母(ひいばあ)ちゃんは、この国に住んでたことがあるから、字を知ってるし、お歳暮も知ってるんだよ」
 ノリ兄ちゃんがイイ笑顔で説明してくれた。「お歳暮」のペン字は、結構な達筆だった。
 分家夫婦が困惑する。
 「ウチは庶民が。お姫様から頂戴するげ、畏れ多いが」
 「お歳暮は、目下の人が、目上の人に贈るものなんですけど……」
 「三つ首山羊の王女殿下は、細かいことを余りお気になさらないご気性ですので、ご遠慮なくお受け取り下さい」
 そう言った後、少し間を置いて、双羽さんは思い出したように付け足した。
 「今回限りですので、お返しなどもお気になさらず」
 「は、はぁ……あの、それでは有難く頂戴致します」
 分家の夫婦は恐縮して平伏した。双羽さんは、いえいえ、お構いなく、とすぐに二人に面(おもて)を上げさせた。
 何だかよくわからない状況に、俺達はその遣り取りを呆然と見守るしかない。

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