■01-汚屋敷の兄妹-お歳暮 02.お菓子(2015年08月30日UP)

 受け取りを確認し、双羽さんがお歳暮の説明を始める。
 まず、掌サイズの素焼きの壺。
 巾着袋と似た文字っぽい模様で、帯のようにぐるりと絵付けされている。油紙で封がしてあり、細いリボンで留められていた。
 「あ、可愛い」
 真穂が呟いた通り、ころんとした可愛い壺で、いかにも女の子が喜びそうな大きさと形だ。
 「中身は普通の蜂蜜です。特定の植物ではなく、森の様々な花から集めた百花蜜です」
 「中身は……って、壺が普通じゃないのか?」
 マー君が、胡散臭そうに聞いた。
 「はい。【収納】の術が掛かっておりますので、外見以上の量が入っています」
 「えっ……これ、何リットル?」
 「さぁ……? 王女殿下は分量をおっしゃいませんでしたので……」
 「おい、ここんち、一生、蜂蜜買わなくていいぞ」
 マー君がうんざりした顔で言った。
 そんな馬鹿な……と思ったが、魔法使い達が誰も否定しないので、俺達も何も言えなくなった。

 次に、銀のスプーン。多分、蜂蜜用。ティースプーンを少し深くした形で、柄のてっぺんに花の飾りがついている。
 米治叔父さんが青くなった。
 「王家の御紋入り……銀の匙……ホントにウチが頂戴してえぇが?」
 「これは下賜品用の略章ですので、ご安心下さい」
 正式な紋章は、「お歳暮」の紙に捺(お)してある印章の形だろう。
 ノリ兄ちゃんが、ムルティフローラ王家の紋章は野茨なんだよ、と教えてくれた。
 従兄(いとこ)の曽祖母(そうそぼ)の徽(しるし)は、首が三つある白山羊……ちょっと悪趣味な気がするけど、魔法の国だし、何か特別な意味があるのかもしれない。
 ノリ兄ちゃんの徽も、黒山羊だしなぁ。

 無地の巾着の中身は、香草茶。香りがよくて、気持ちが落ち着く薬草。
 さっきの巾着と同じくらいの大きさで、これは外見通りの容量らしい。
 淹れ方は普通のハーブティーと同じ。寝る前に飲むとよく眠れそうだ。

 麦藁を編んだ小籠には、布の包みが入っている。開くと、中には素朴な形のクッキーがぎっしり詰まっていた。
 「王女殿下が、手ずから焼かれたお菓子です」
 「スゲー、お姫様の手作りクッキー、スゲー」
 コーちゃんが、それしか言えないのかってくらい、ひたすら「スゲー」を連呼する。
 俺も何か言おうと思ったけど、口を開けば「スゲー」しか出ないような気がして、黙っていることにした。

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