■汚屋敷の跡取り-【解説】2.変化(2015年09月06日UP)

 ゆうちゃんは、長年疎遠だった従弟(いとこ)一家の訪問がきっかけで、十九年ぶりに庭に出ました。
 知らない間に、従弟は結婚して子供も生まれていました。別の従妹弟(いとこ)も生まれていました。

 ゆうちゃん一人で、十九年かけて汚し続けた自室を、自分の手で掃除することで、事態が動き始めます。
 最初は不純な動機で掃除していましたが、堆積したゴミと向き合う内に、過去の自分の姿を客観的にみられるようになってきます。

 従妹の藍ちゃんとクロエに指摘され、自分と従弟を冷静に比較することで、自分が井の中の蛙であることを自覚しました。
 ゴミ屋敷化した現在の家を見て、祖父と父は間違っているんじゃないか、と思い始めます。

 分家に向かう車中で、従弟(いとこ)の一人、政治(まさはる)と、ゆうちゃんが思い描いていた輝かしい未来を比較し、劣等感を募らせます。
 親戚が集まった中で、異母弟妹の宣言を貶(けな)し、頭ごなしに否定します。
 無条件で見下していた異母弟妹が、ゆうちゃんが手に入れられなかったものを手にしようとしていることに、怒りと焦燥を感じたからです。

 ゆうちゃんは当然、従弟妹(いとこ)達の怒りを買い、フルボッコにされます。
 従弟(いとこ)達は、単に自分達の現状を説明したに過ぎませんが、ゆうちゃんには刺激が強過ぎました。

 ゆうちゃんは、身体障碍を理由に従弟(いとこ)の宗教(むねのり)を見下していました。
 宗教(むねのり)は、魔法使いで、特別な力と権力を持っています。
 そして、本人の努力によって、帝国大学準教授の地位に就きました。
 王族ですが、実母の虐待……監護放棄が原因で自己評価が低く、存在を肯定されたくて、誰かの為に頑張っています。 (本編の05.初めましてや、【野茨の血族】-36.三つ子等参照)

 ゆうちゃんは、五体満足で体は丈夫ですが、特別な力は何も持っていません。
 根拠のないプライドと万能感は人一倍。何もかも人のせいにして、自分では何もしません。
 家業の手伝いの他には、働いたことがないので、職業観も歪んでいました。

 みんなから正論でお説教され、更にフルボッコ。本家に逃げ帰ります。

 ゆうちゃんは、思い出が詰まった押入れを発掘することで、より深く、自分の過去と内面に向き合います。
 「クロエにどうみられるか/よく見られたい」を基準に自分の過去を選別し、その大部分を捨て去りました。
 二分の一成人式の記録を発掘し、子供の頃を思い出します。

 最後に、自分自身をも捨て去ろうとしますが、あっけなく看破され、思い通りにはなりませんでした。
 ゆうちゃんは、異母弟妹から家と一緒に捨てられ、呆然と見送ります。
 二十年ぶりの初詣で、ゆうちゃんの中の何かが大きく変わりました。

 実母失踪の真相を知り、祖父と父の姿を直視することで、ゆうちゃんは自分の本当の姿を自覚することができました。
 ゆうちゃんは、自分も父と同じ「DVの加害者」だと自覚しました。
 人として尊重されることのありがたみに気付き、人に心から感謝できるようになりました。
 自覚はまだまだ不十分で、奴隷扱いし続けた祖母にも、散々暴言を吐いた異母弟妹と従弟にも、一言も謝っていませんが……

 かつて弱者だった子供も、時が来れば大人になります。
 かつて被害者であったことは、現在、加害者であることの免罪符にはなりません。

 アラフォーのゆうちゃんが、この後何年、生きるか不明です。
 まだ、何をどう頑張ればいいのかすら、わかりません。
 まだ、自分にとって都合の悪いことは、認識できません。
(例:メイドのクロエ=執事の黒江=黒猫のクロ=魔法生物で、人間ではない→結婚できない)
 でも、他人のせいにしてはいけない事だけは、わかりました。
 これまでの事が許されないことも自覚し、せめて約束を守る事で償おうと、決心しました。

 マイナスをゼロに近づける第一歩を踏み出すところで、この話は終わりです。
 「かさぶたをキレイにめくって、膿を出しきった感」のようなものを感じていただけましたら、幸いです。

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